過去の新法・新判例

2019年10月01日

改正民法シリーズ④≪定型約款≫

弁護士 尾形 彰信

1 はじめに


  改正民法の重要項目を解説するシリーズ第4弾として、今回の改正で新たに追加された約款に関するルールについて取り上げます。


2 約款に関する現行民法の問題点


 約款とは、大量の同種取引を迅速・効率的に行うために作成された、定型的な内容の取引条項を指します。例えば、鉄道やバスの運送約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約など、多様な取引で広範に活用され、現代社会においては、必要不可欠な存在となっています。

 しかし、現行民法には約款に関する規定がなく、裁判実務上いまだ確立した解釈もないことから、主に以下の点が問題となっていました。

民法の原則によれば、契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されないが、約款を用いた取引をする多くの顧客は約款に記載された個別の条項を認識していないのが通常。
→どのような場合に個別の条項が契約内容となるのか不明確。

民法の原則によれば、契約の内容を事後的に変更するには、個別に相手方の承諾を得ることが必要だが、顧客の個別の承諾が得られないこともあり得る。
→約款中に「この約款は当社の都合で変更することがあります。」との条項を設ける
実務もあるが、その有効性については見解が分かれており、どのような場合に約款の変更が認められるのか不明確。

 以上の状況では、契約内容の画一性を維持することができず、取引の安定性を阻害することから、今回の改正民法において約款に関する定めが追加されるに至りました。約款を活用する企業にとっては留意が必要な改正です。


3 約款にかかる改正民法のポイント


(1)約款に関する改正民法のポイントは概要以下のとおりです。

新しいルールの適用対象である取引と約款が何かを定義したこと
約款の内容が契約の内容となる要件を明確にしたこと
約款における不当条項の取扱を定めたこと
約款の変更要件・手続を明確にしたこと

(2)①定型約款の定義付け


 改正民法では、新たなルールの適用を受ける取引(定型取引)が何かを定めています。
 そして、定型取引の契約内容にすることを目的として準備した約款を「定型約款」と定義し、各種のルールを定めています。

 定型取引とは、以下の要件を全て満たすものをいいます(改正民法548条の2第1項)。
 a ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引であること
 b 取引の内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的であること

 aの取引は、顧客の個性に着目せずに行う取引を指すため、事業者間の契約がこの要件を満たすケースは限られてくるのではないかと思われます。
 bの「画一的であることが双方にとって合理的」な場合が何を指すのか分かりにくいところですが、例えば、顧客毎に契約内容を変え得るとすると迅速なサービス提供に支障が生じる場合等が想定されているものと考えられます。
 定型約款に該当する例としては、インターネットサイトの利用規約等が挙げられます。他方、該当しないものとして、事業者間取引で用いられる一方当事者の準備した契約書のひな形等が考えられます。


(3)②定型約款の内容が契約の内容となるための要件


 定型約款を契約の内容にするためには、以下のどちらかの要件を満たす必要があります(改正民法548条の2第1項各号)。
 a当事者の間で定型約款を契約の内容とする旨の合意をする
 bあらかじめ定型約款を契約の内容とする旨を顧客に表示する
 このaかbのどちらかの要件を満たす場合には、定型約款の条項の内容を顧客が認識していなくても、定型約款の内容を契約内容とすることに合意したものとみなされることになり、定型約款の内容に拘束力が生じます。

 aの合意が認められる場合としては、ECサイトを例にすれば、「利用規約が適用されることに同意します」といった表示を行い、顧客にこれをチェックしてもらう仕様とする場合が考えられます。
 bの表示については、自社ホームページ等で一般的に公表するだけでは足りず、インターネットを介した取引などであれば、契約締結画面までの間に認識可能な状態に置くことで「表示」があったといえるものと考えられます。
 aの合意であれ、bの表示であれ、その対象は定型約款の内容ではなく、あくまでも、ある取引にある約款が使用されて契約の内容になることが合意又は表示されていれば足りると考えられます。

 以上のとおり、定型約款を契約内容にするためにあらかじめ当該定型約款の内容を顧客に表示することが原則不要ですが、顧客から請求があった場合には、遅滞なく、その定型約款の内容を示さなければならないとされております(改正民法548条の3第1項)。
 定型取引を行う旨の合意を締結する前において上記の請求を拒んだときは、定型約款の条項の内容は契約内容となりませんので(改正民法548条の3第2項)、注意が必要です。


(4)③約款における不当条項の取扱い


 改正民法では、定型約款を契約の内容とするための要件を満たした場合でも、不当条項(※)については合意しなかったものとみなし、法的拘束力を否定しています。
不当条項とは、相手方(顧客)の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものを指します(改正民法548条の2第2項)。

 この定めによって効力が否定される条項の例として、顧客に対して過大な違約金を定める条項や事業者の故意又は重過失による損害賠償責任を免責する条項のように内容自体が不当なであるものが想定されるほか、売買契約において本来目的となっていた商品に加え想定外の別の商品の購入を義務付ける条項のように、当該条項の存在が容易に認識できないような不意打ち的な条項も想定されます。
 不当条項にあたるか否かは、当該条項の内容の不当性と顧客側にとって認識・予測困難であったという不当性(不意打ち的要素)の両面が考慮されるものと思われます。


(5)④定型約款の内容の変更要件・手続


長期にわたって継続する取引では、法令の変更や経済情勢・経営環境の変化に対応して、実際に顧客の同意がなくとも変更を可能とする必要がある一方で、顧客の利益保護の観点から、変更を合理的な場合に限定する必要もあります。

そこで改正民法では、次のいずれかに該当する場合には、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、実際に個別で顧客と合意をすることなく契約の内容を変更することができることになりました(改正民法548条の4第1項)。


a定型約款の変更が顧客の一般の利益に適合する場合
b定型約款の変更が契約の目的に反せず、かつ、合理的である場合(合理性は、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして判断されます)

 aの場合としては、顧客が支払うべき利用料を減額するケースや、顧客の金銭負担は増やさずにサービスを拡充するケースが考えられます。
 bの合理性は、例えば、法令が変更されることによってそれに対応する規定を追加する場合や経済情勢が変動したことに伴って対価やサービス内容を変更する場合には、変更の必要性が認められやすいように思われます。顧客への不利益の内容・程度も考慮要素になってくると考えられます。

 なお、定型約款の変更をするときは、定型約款を変更する旨、変更後の定型約款の内容及びその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならず、顧客に不利な変更をする場合(上記bの場合)は、効力発生時期が到来するまでに上記周知をしなければ効力が生じないと定められていますので、注意が必要です(改正民法548条の4第2項及び同3項)。


(6)適用時期


改正民法は2020年4月1日から施行されますが、定型約款に関しては、施行日前に締結された定型取引にかかる契約にも、改正後の民法が適用されます(改正民法附則33条1項)。これにより、定型約款の変更について新たな規律が適用されることになります。
 他方、現行民法の規定によって生じた効力は妨げないと定められていますので(同項但書)、例えば、現行民法下でされた定型約款を利用した契約の成立の可否、個別の条項の拘束力の有無等が争われるケースについて、改正民法のルールではなく、現行民法を踏まえて解決することになると考えられます。

以上はあくまでも原則であり、施行日前(平成32年(2020年)3月31日)までに当事者の一方が書面等により反対の意思表示をすれば、施行日前に成立した定型契約に改正民法は適用されないことになります(同条2項、同3項)。しかし、改正前の民法には約款に関する規定がなく、確立した解釈もないため、万一反対の意思表示をするのであれば、慎重に検討する必要があります。


4 企業実務への影響(インターネットサイトの利用規約を題材に)


(1)契約への組入要件について


今回の改正民法では、定型約款を契約内容とするための要件が明確になり、当事者間で定型約款の内容が契約内容となる旨を合意するか、その旨を顧客に表示することが必要となりました。
 インターネットサイトでは、「利用規約に同意して購入」といった形で明示的な表示を行い同意ボタンをクリックさせるケースも多く、この場合は改正民法でいうところの「定型約款を契約の内容とする旨の合意をする」ケースといえるのではないかと考えられます。
 他方で、サービス利用の便宜を考慮し、利用規約へのリンクを掲載するのみで明示的に定型約款に対する合意を求めないケースも一定数あるようで、このような設計の場合には、定型約款の内容が契約内容となる旨を顧客に「表示」する方法を検討することになろうかと考えられます。

不当条項の取り扱い(上記3(4))については、消費者を対象としたインターネットビジネスではこれまでも消費者契約法を意識して利用規約が作成されてきたはずですので、改正民法の不当条項の取り扱いが及ぼす影響は限定的と考えられます。
 他方でBtoB取引でも定型取引(顧客の個性に着目しない取引)に該当し改正民法の適用を受ける場合には、今回の改正により効力が否定される条項が出てくる場合がありますので、留意が必要です。


(2)定型約款の変更について


インターネットビジネスでは、利用規約の変更につき各社が各々で手続を定めていましたが、今回の改正民法により、定型約款の変更の手続として一定の周知措置が必要となることが明確になりましたので、これに従う必要が生じます。
 具体的には、利用規約を変更する旨とともに変更後の利用規約の内容と効力発生時期を周知する必要があり、周知方法としては、ウェブサイトに掲載する、又は、ユーザへのメール送付によって周知することが考えられます。

また、上記3(5)のとおり、変更内容についても一定の制約があることが改正民法では明確になりました。利用規約の変更の際には、改正民法の定めによりその効力が否定されるケースがあり得ることも念頭において変更内容を検討する必要があります。


 当事務所では改正民法に対応したリーガルサービスを提供していますので、ご懸念等ありましたらお気軽にご相談ください。



以上