過去の新法・新判例

2019年09月01日

改正民法シリーズ③《保証》

弁護士 板井貴志

1 はじめに

 改正民法の重要項目を解説するシリーズ第3弾として、今回は、「保証」に関するルールの見直しについて取り上げます。
 なお、今回の保証に関する改正事項は、細かいものも多いことから、以下では、①従来の学説・判例が明文化されたもの、②旧法下の取扱いが変更されたもの、③今回の改正で新設されたものに分け、それぞれ、重要な点に絞って取り上げます。

2 従前の学説・判例が明文化されたもの

 今回明文化された主な事項は以下のとおりです。もっとも、これらは、従前の実務に変更を迫るものではないため、簡単なご紹介にとどめます。

主債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない(新法第448条第2項)
保証人は、主債務者が債権者に対して主張できる抗弁をもって、債権者に対抗することができる(新法第457条第2項)
主債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主債務者がその債務を免れる限度で、保証人は債権者に対し債務の履行を拒むことができる(新法第457条第3項)
保証人は、主債務の弁済期前に債務消滅行為をしても、主債務の弁済期以後でなければ、求償権を行使できない(新法第459条の2第3項、第462条第3項)

3 旧法下の取り扱いが変更されたもの

 主な変更点は以下の通りです。これらの他、保証人による主債務者に対する求償に関するルール等が変更されています。

連帯保証人に対する履行の請求について、相対効の範囲が広がり、特に、連帯保証人に対してなした履行の請求について、旧法下では主債務者にも効力が生じることとされていたところが、新法下では効力を生じないとされました(新法第458条、第441条)。
主債務者の意思に反しない無委託保証人が債務消滅行為をする場合における事前通知義務(旧法第463条第1項、第443条第1項)と、主債務者の意思に反する無委託保証人による事後通知義務(旧法第463条第1項、第443条第2項)が廃止されました。
旧法下では個人が保証する主債務に貸金等債務が含まれる場合に「貸金等根保証契約」として規制していたところ、個人が保証する主債務に一定の範囲に属する不特定の債務が含まれる保証契約(「個人根保証契約」)が広く規制対象となったため、個人根保証契約についても、極度額を定めなければ無効とされることになりました(新法第465条の2)。

 若干コメントしますと、①については、時効の中断(新法では時効の「更改」)との関係で、連帯保証人にのみ請求しても主債務の時効は中断しないことになりました。そのため、主債務者にも別途請求するか、保証契約書において、連帯保証人に生じた事由が主債務者にも効力を生じる旨の合意(下記4①)をするなどして、手当てする必要があります。
 ②については、委託を受けない又は主債務者の意思に反する保証は、実務上はあまり見られないことから、大きな影響はないと考えられます。
 ③については、不動産賃貸借契約における保証人、労働契約における身元保証人、継続的取引において生じる債務の保証人などにおいて、極度額を定めなければ保証契約が無効となり得ることとなり、実務上の影響は大きいと思われます。


4 今回の改正で新設されたもの

 今回の改正で新たに新設された規律は以下のとおりです。

相対効の原則(上記3①)とは異なる扱いとすることを債権者及び主債務者が合意していた場合、連帯保証人に生じた事由の主債務者に対する効力はその合意に従う(新法第441条但書) 委託を受けた保証人(法人を含む)の請求があったときは、債権者は、主債務の元本や利息等の従たる債務についての不履行の有無・各債務残額・そのうちの弁済期到来分の額に関する情報を提供しなければならない(新法第458条の2)
保証人が個人である場合、主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、そのことを知った時から2カ月以内に、その旨を通知しなければならず、その通知をしなかったときは、保証人に対し、期限の利益を喪失した時から通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く)を請求できない(新法第458条の3)
保証人が個人である場合には、事業のために負担する債務を主債務とする保証契約やこれを主債務の範囲に含む根保証契約については、その委託をする主債務者は、自己の財産及び収支の状況等に関する情報を保証人になろうとする者に対して提供しなければならず、これがなされなかった場合に、債権者がそのことを知り又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができる(新法第465条の10)
保証人が個人である場合には、事業のために負担した貸金等債務を主債務とする保証契約やこれを主債務の範囲に含む根保証契約については、自己が取締役を務める法人が主債務者であるなどの一定の例外を除き、保証契約締結の日前1ヶ月以内に、公正証書をもって、保証人となろうとする者の保証意思を確認しなければならず、この手続を経ていない保証契約は無効となる(新法第465条の6~第465条の9)

 以上は、主債務の内容等についての情報提供に関するものや、保証意思確認に関するものなど、保証人保護の観点からの改正です。従前は存在しなかった規律であるため、特に注意を要します。


5 企業実務への影響


⑴ 保証契約締結時の留意点

 まず、個人根保証契約においては、極度額の定めがないと保証契約が無効となるため、個人根保証契約への該当性については、特に慎重な検討を要します。不動産賃貸借契約における賃借人の負う債務の保証、労働契約における身元保証契約のほか、例えば、投資契約において、当事会社が投資家に対して負う不特定の債務を代表者が保証する場合なども、個人根保証契約に該当する可能性がありますので、主債務の内容をよく確認することが必要です。
 また、事業上の貸金等債務を、代表者の親族などが保証する場合には、公正証書による保証意思確認が必要となる場合がありますので、保証人の属性(主債務者との関係等)にも、これまで以上に留意が必要となります。
 さらに、事業上の債務を個人保証人が保証する場合にあっては、主債務者からの保証人への情報提供が適切になされていないと、保証契約が取り消される可能性があるため、債権者としては、保証契約書上、係る情報提供を受けたことを保証人に表明保証してもらうなどの対応をしておくのが無難です。


⑵ 保証契約締結後の留意点

 会社が主債務者、その代表者が連帯保証人である場合は、保証人が主債務の履行状況を把握していないということは少ないと思われますが、例えば、自社の従業員が会社資産の横領等をし、当該従業員の親族に返還債務を連帯保証させるような場合には、主債務の履行状況を把握していない保証人から、情報提供請求を受けることも予想されます。これについては、同請求の要件(特に、委託を受けた保証人にのみ認められていることに注意)を欠くのに情報提供してしまった場合や、法定の情報以外の情報まで提供してしまった場合には、主債務者からプライバシー侵害を主張されるおそれもありますので、過度な情報提供とならないよう留意が必要です。
 また、主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、「期限の利益の喪失を知った時」から2カ月以内に保証人に通知しなければ、遅延損害金を保証人に対して全額は請求できなくなる可能性があります。こちらの情報提供は、主債務の履行状況に関する情報提供と異なり、保証人からの請求がなくとも行う必要があるため、失念することのないよう注意しなければなりません。


 以上のように、今回の改正が実務に与える影響は小さくありません。保証契約について、改正民法を踏まえた対応を検討する場合には、当事務所までお気軽にご相談ください。



以 上