過去の新法・新判例

2019年08月01日

改正民法シリーズ②«法定利率»

弁護士 春山修平

1 はじめに

 改正民法の施行が2020年4月に迫っています。改正民法について、企業実務に影響を与える重要項目を解説するシリーズの第2弾として、本稿では「法定利率」に関するルールの見直しを取り上げたいと思います。

2 法定利率の見直し

(1)現行法の内容

  利息を生ずべき債権の法定利率について、現行法では以下のように定められています。

法令 法定利率
民事(現行民法第404条) 年5%
商事(現行商法第514条)
※商行為によって生じた債務に適用
年6%

 民事法定利率は、現行民法制定時の市中の金利を踏まえて設定されたものであり、商事法定利率は民事法定利率を前提に1%高い利率にて設定されたものです。また、現行法では、かかる法定利率は固定されており、変動することはありません。

(2)改正民法の内容

  これに対して、改正民法では、以下のような見直しが行われました。

改正内容 改正の理由
■法定利率の引き下げ
 →施行時に「年3%」へ
 (第404条第2項)
現行の民事法定利率年5%というのは、時代の経過とともに市中金利を大きく上回る状態が続くようになり、債権者・債務者間の不公平が生じている。
■緩やかな変動制の導入
 (第404条第3項から第5項)
将来にわたって法定利率と市中金利との乖離を防ぐため変動制とする。なお、短期的・微細な変動は社会的コストが大きくなるため、緩やかな変動制とする。
■商事法定利率の廃止
 (現行商法第514条の削除)
現代社会においては商行為によって生じた債務を特別扱いする合理的理由に乏しい。

(3)変動制の具体的な内容

  変動制の具体的な内容は、以下のとおりです。

変動の周期 3年を「1期」として、「1期」ごとに変動させる。
※この3年を1期とする仕組みが具体的にいつの時点から開始するかについては、法務省令に委任されています。
変動の方法 「直近変動期の基準割合」と「当期の基準割合」との差に相当する割合(1%未満は切捨て)を直近変動期における法定利率に加算/減算する。
■「直近変動期」=法定利率が変動した期のうち直近の期(ただし、施行後最初の変動があるまでは施行後最初の期をいう)
■「基準割合」=日本銀行が公表する貸出約定平均金利の過去5年間(※)の新規短期貸付平均利率の合計を60で除して計算した割合
 ※各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月(12か月×5年=60か月)
適用の基準時 以下のルールに従い、1つの債権については1つの法定利率のみが適用される(事後的に法定利率が変動しても、当該債権について適用される法定利率は変わらない)。
利息債権 利息が生じた最初の時点における法定利率による(第404条第1項)。
金銭債務の遅延損害金債権 債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率による(第419条第1項)。

 「変動の方法」について、基準割合として過去5年間の平均利率を用いることで、市中金利の突発的・短期的な政治的・経済的事情による影響を捨象しながら、金利変動の大まかな傾向を反映させることができるものと考えられています。
 なお、変動のシミュレーションについては、法務省のウェブサイトに具体例が掲載されています(http://www.moj.go.jp/content/001259612.pdf)。

(4)改正民法の適用開始時期

 改正法の施行日前に利息が生じた場合、その利息を生ずべき債権に係る法定利率は従前の例によるとされています。したがって、2020年4月1日より前に利息が生じた債権については、現行民法の法定利率の定めが適用されることになります。


3 中間利息控除の規定の新設

(1)現行法下の考え方

 中間利息控除とは、債務不履行(安全配慮義務違反など)や不法行為に基づく損害賠償額の算定にあたり、将来の逸失利益や出費を現在価値に換算するために、損害賠償額算定の基準時から将来得られたであろうと期までの利息相当額(=中間利息)を控除するというものです。
 これは、本来逸失利益は将来の各時点で少しずつ得られる利益であるにもかかわらず、一時金で前払いを受ける結果、権利者は前払を受けた一時金を将来に渡り運用できる分利得を受ける結果となるため、中間利息を控除して逸失利益を現在価値に引き直すために行われるものです。
 中間利息控除については、現行法下には明文規定はありませんが、実務上当然に認められており、判例(最判平成17年6月14日)は、中間利息の算定は民事法定利率によることを明らかにしていました。

(2)改正民法の内容

 かかる中間利息控除について、中間試案では年5%の固定制とする案が提案されましたが、パブリックコメントでの反対意見を受け、中間利息控除にも法定利率(変動制)を適用することとされました(第417条の2、第722条第1項)。
 なお、この中間利息控除の規定が強行法規か否かという点については一義的ではなく、いずれとも考えられるとの見解も示されていますので、今後の解釈に委ねられるものといえます。


4 企業実務への影響

 利息を生ずべき債権について法定利率が適用されるのは、約定利率がない場合であり、約定利率の定めがあれば約定利率が適用されます(改正民法第404条第1項)。また、金銭債務の遅延損害金についても、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によるものとされています(改正民法第419条第1項)。
 そのため、契約において約定利率を定めている取引においては、法定利率が適用される場面は多くはありません。その意味では、従前より契約にて利息あるいは金銭債務の遅延損害金に係る利率を定めている企業においては、法定利率の改正に関わらず、改正後も従来の契約内容を変える必要はなく、取り扱いにも変更はないというケースが多いものと思います。
 他方、改正により法定利率が引き下げられ、また、変動制になったことを踏まえると、これまで以上に契約書で利息あるいは金銭債務の遅延損害金に係る利率を定めるべき要請は高まったものといえますので、その点の対処が不十分であった企業においては、これを機に契約書の見直しを行うことが望まれます。
 また、不当利得返還請求や、非金銭債務の債務不履行に基づく損害賠償金の遅延損害金請求、あるいは中間利息控除など、法定利率が適用される場面は少なからず発生しますので、各企業においては、改正法の理解を深める必要があろうかと思われます。
 当事務所では改正民法に対応したリーガルサービスを提供していますので、ご懸念等ありましたらお気軽にご相談ください。


以上