過去の新法・新判例

2019年04月01日

「新規上場申請者に係る各種説明資料」の改訂(日本取引所自主規制法人2018年12月27日改訂)

弁護士 大 村 健

1 はじめに


 日本取引所自主規制法人は、2018年12月27日に、「新規上場申請者に係る各種説明資料」(以下「各種説明資料」といいます。)の記載項目についての改訂を発表しました。
 2019年7月1日以降に申請を行う申請会社から適用されますが、早期適用可としています。
 今回は、多くのベンチャー企業やスタートアップ企業が目指す東京証券取引所マザーズ市場に新規に上場申請する際に重要な書類の一つである各種説明資料の記載事項の改訂について、法務的に重要なポイントを絞って解説いたします。
 以下、(旧)とは旧規定、(新)とは新規定、(新設)とは新規定で導入された項目を表しています。


2 コーポレート・ガバナンスについて


(旧)

次の項目についてご説明ください。
・コーポレート・ガバナンスの取組みに関する基本方針(支配株主を有する場合は、当該支配株主と取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針を含みます。)
・経営上の意思決定等に係る経営管理組織の構成、決定方法及びプロセス
・独立役員について(独立役員の構成(人数や取締役・監査役の別等)に関する方針(取締役である独立役員を確保していない場合には、その確保に向けた具体的な計画を含む)及び独立役員が期待される役割を果たすための環境整備の状況(独立役員との情報共有方法等))
・株主総会の活性化及び議決権行使の円滑化に向けての取組み状況(定時株主総会の開催日の決定方針、株主総会の招集通知の発送方針及び投資者への提供方法、書面及び電磁的方法による議決権行使の整備状況、独立役員に関する情報及び社外役員の独立性に関する情報の記載方針)
・内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備・運用状況又は準備状況(対応部署、準備スケジュール、現状において明らかになった課題・改善点等がある場合はその内容を含みます。)
・反社会的勢力の排除に向けた具体的な取組み状況(新規取引先・既存取引先・株主・役員・従業員に対して行っている反社会的勢力チェックの方法を含みます。)
・買収防衛策等の導入状況等(買収防衛策導入状況及び今後の予定)
・子会社及び関連会社に対する管理方法について(該当する場合のみ)
・財務報告に係る内部統制の評価・報告体制の準備状況
・株主との契約、役員との契約、その他コンサルティング契約、顧問契約等の状況


(新)

次の項目についてご説明ください。
・機関設計の理由(指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社のいずれかを選択した理由)
・コーポレート・ガバナンスの取組みに関する基本方針(支配株主を有する場合は、当該支配株主と取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針を含みます。)
・独立役員について(独立役員の構成(人数や取締役・監査役の別等)に関する方針(取締役である独立役員を確保していない場合にはその確保に向けた具体的な計画を、確保している場合には独立役員の独立性基準への該当状況を含む)及び独立役員が期待される役割を果たすための環境整備の状況(独立役員との情報共有方法等))
・業務の適正を確保するために必要な体制(有価証券上場規程第439条で定める体制)の整備の決定についての取締役会決議状況(決議日・決議予定日等)
・内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備・運用状況又は準備状況(対応部署、準備スケジュール、現状において明らかになった課題・改善点等がある場合はその内容を含みます。)
・反社会的勢力の排除に向けた具体的な取組み状況(新規取引先・既存取引先・株主・役員・従業員に対して行っている反社会的勢力チェックの方法を含みます。)
・買収防衛策等の導入状況等(買収防衛策導入状況及び今後の予定)
・子会社及び関連会社に対する管理方法について(該当する場合のみ)
・財務報告に係る内部統制の評価・報告体制の準備状況
・株主との契約、役員との契約、その他コンサルティング契約、顧問契約等の状況


 新規定で機関設計の理由が求められることになりました。
 私も上場準備企業は機関設計を安易に決めてはならないと考えております。
 法律上は、必ずしも常勤を置かなくてもよい監査等委員会設置会社も上場審査実務では常勤の監査等委員を置いていることが通常ですし、社外役員の数を減らしたいからと言って監査等委員設置会社とした場合、大会社以外の会社でも会計監査人の設置が必要となってしまい、金融商品取引法監査だけでなく、会社法監査も受けなければならなくなるためです。
 また、独立役員の独立性基準への該当状況も記載しなければならなくなりました。



3 監査(監査役監査、内部監査等)について


(旧)

次の項目についてご説明ください。
・現在の内部監査の体制(担当部署、担当人員の氏名・経歴・内部監査業務に関する資格)
・内部監査の実施状況(対象範囲、ビジネスモデルやリスク等を踏まえた上での重点監査項目、ローテーションの状況、手続き)
・内部監査体制の今後の計画
・三様監査(監査役監査、内部監査、公認会計士又は監査法人による監査)の連携状況
・現在の内部監査の体制(担当部署、担当人員の状況及び経歴)
・内部監査の実施状況(対象範囲、重点項目、ローテーションの状況、手続き)
・内部監査体制の今後の計画
・三様監査(監査役監査、内部監査、公認会計士又は監査法人による監査)の連携状況



次の項目についてご説明ください。(監査役監査について、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社は監査(等)委員会の監査に置き換えてご説明ください。)
・監査役の職務の分担及び監査役(会)の事務局、監査役会の運営実務(日程調整、議案の確認・調整方法、欠席者がいる場合における議題共有や検討のための代替策等)
・監査役監査の実施状況(対象範囲、ビジネスモデルやリスク等を踏まえた上での重点監査項目、ローテーションの状況、手続き)
・現在の内部監査の体制(担当部署、担当人員の氏名・経歴・内部監査業務に関する資格)
・内部監査の実施状況(対象範囲、ビジネスモデルやリスク等を踏まえた上での重点監査項目、ローテーションの状況、手続き)
・内部監査体制の今後の計画
・三様監査(監査役監査、内部監査、公認会計士又は監査法人による監査)の連携状況


 旧規定では、内部監査のみの項目ですが、監査役監査も追加され、タイトルも変更されました。
 監査役監査の実施状況や監査役会の運用実務について記載しなければならず、監査役監査が非常に重要視されていることがわかります。
 内部監査についても資格を記載する必要となったり、ビジネスモデルやリスクを踏まえた上での重点監査項目を記載しなければならなくなり、より詳細に記載しなければならなくなる必要がありそうです。



4 リスク管理及びコンプライアンス体制について


(旧)

次の項目についてご説明ください。
・リスク管理及びコンプライアンス体制の整備状況(情報セキュリティ、個人情報保護等の体制を含みます。)
・最近5年間(「最近」の起算は、直前事業年度の末日からさかのぼるものとします。以下同じ。)及び申請事業年度の法令違反及び行政処分、係争・紛争の状況
・知的財産保護に関する考え方及び他社の知的財産を侵害しないための社内体制


(新)

次の項目についてご説明ください。
・リスク管理及びコンプライアンス体制の整備状況(外部専門家との連携状況、関係する法令等の改廃動向を適切に把握するための取組み、関係する法令等の内容、改廃動向を社内に周知するための取組み、リスク管理及びコンプライアンスに係る会議体を開催している場合にはその概要等。情報セキュリティ、個人情報保護のための体制を含みます。)
・内部通報制度の整備状況(社内の通報窓口、社外の通報窓口、通報受領後のフロー、社員への周知方法・当該制度の利用を促進する施策、最近2年間及び申請事業年度の通報件数等)
・関連する法的規制において、有資格者を求められる場合にはその内容及び充足状況
・最近3年間及び申請事業年度の法令違反及び不祥事等(情報漏えいを含みます。)、行政による調査及び行政指導・処分等(国税局、税務署及び労働基準監督署からのものも含みます。)並びに係争・紛争の状況
・トラブルやクレーム等の状況(トラブルやクレーム等の把握方法及び対応方法、最近3年間及び申請事業年度の顧客とのトラブルやクレーム等の発生状況等)
・知的財産保護に関する考え方及び他社の知的財産を侵害しないための社内体制


 ここ数年、上場後のコンプライアンス違反の事例が多発したためか、最近の上場審査では、コンプライアンスについて、細かく聞かれるようになりました。
 その流れを汲んだのか、リスク管理とコンプライアンス体制について、体制を整備するとともに対応した内容の充実を図る必要があり、より詳細な説明が求められることになりました。
 外部専門家との連携状況というのが最たる例です。今後は、我々専門家もより専門性を求められ、上場準備企業側もより専門性の高い専門家との連携をしていく必要があると思われます。
 また、内部通報制度についても利用を促進する施策や具体的な通報件数等を記載する必要があり、かなり重要視されています。



5 取締役会の運営実務について


(新設)

取締役会の運営実務について、日程調整、議案の確認・調整方法、欠席者がいる場合における議題共有や検討のための代替策等をご説明ください。


 実務上は、上場準備会社の審査対象期間中の取締役会への欠席をなくすべく、あらかじめ1年単位等でスケジュールを抑えてしまうのが通常です。
 また、同期間中の書面決議は控えた方がよいと考えますが、電話会議やテレビ会議での出席は場合によっては可能と考えてよいのではと思います。



6 経営者が関与する取引について


(新設)

次の項目についてご説明ください。
・最近2年間及び申請事業年度における経営者が関与する取引の有無、(有の場合)取引の内容
・経営者が関与する取引に関する牽制体制の整備・運用状況
(注) 経営者が関与する取引とは、経営者自らが営業して獲得した案件・企画した案件や、例外的に経営者が決裁を行っている案件等を指します。


 経営者が関与する取引で不正が多発したため、最近の上場審査では重点項目の一つとされていたところです。
 広範な規制ではありますが、コーポレートガバナンスを強化する観点からも重要な改訂と考えます。



7 従業員・労務の状況


(旧)

次の項目についてご説明ください。
・組織(機構)図(部署等の名称、責任者の役職・氏名及び配置人数(うち出向者の数)、最近1年間の採用、退職者数
・労使協定の締結状況(協定の内容を含みます。)
・上場申請日の属する月の直前月末以前6ヶ月の時間外労働の状況について、36協定(特別条項を締結している場合には当該条項の内容)に違反している従業員が存在する場合、当該従業員の時間外労働の状況
・最近3年間及び申請事業年度における企業グループの労働基準監督署からの調査の状況(調査日、調査内容、指導及び是正勧告の有無並びにその内容等。企業グループのうち記載が困難な会社がある場合には、その理由を示し、記載を省略することができます。)


(新)

次の項目についてご説明ください。
・組織(機構)図(部署等の名称、責任者の役職・氏名及び配置人数(うち出向者の数))、最近1年間の採用、退職者数(部署等の責任者の退職がある場合にはその職位、退職理由、退職による業務上の影響及び対応状況(他の人物の昇進、採用等))
・現状の人員について過不足が生じている部署等がある場合にはその内容
・今後2年間における人員計画
・勤怠の管理方法及び未申告の時間外労働(いわゆるサービス残業)の発生防止のための取組み
・時間外及び休日労働並びにみなし労働時間制に係る労使協定の締結状況(協定の内容を含みます。)
・最近1年間及び申請事業年度における部署ごとの各月の平均時間外労働時間の推移(管理監督者(管理職)を含みます。また、季節変動性がある場合には、その理由も記載してください。)
・最近1年間及び申請事業年度において、36協定(特別条項を締結している場合には当該条項の内容)に違反している従業員が存在する場合、当該従業員の時間外労働の状況
・長時間労働の防止のための取組み
・最近1年間及び申請事業年度における従業員に対する賃金未払いの発生状況(発生時期、期間、件数、金額)及びその後の顛末
・管理監督者の状況(部署ごとに、申請会社で定義(認識)している管理監督者(管理職)の数と、労働基準法で定めるところの管理監督者の数を一覧にして記載してください。なお、差異が発生している場合にはその理由も記載してください。)
・最近1年間及び申請事業年度における労働災害の発生状況及び安全衛生に係る取組み
・最近3年間及び申請事業年度における企業グループの労働基準監督署からの調査の状況(調査日、調査内容、指導及び是正勧告の有無並びにその内容等。企業グループのうち記載が困難な会社がある場合には、その理由を示し、記載を省略することができます。)
・最近3年間及び申請事業年度における懲戒処分の状況


 労務は、コンプライアンス違反を誘発しやすく、今も昔も上場審査では最重要課題とされています。
 退職者数だけでなく、部署の責任者が退職する場合はその理由や業務上の影響及び対応方法まで記載を求められています。
 さらには、昨今の流れを受け、平均時間外労働時間の推移や管理監督者の状況や安全衛生にかかる取り組みまで記載を求められることになりました。



8 さいごに

 以上、コンプライアンスやコーポレート・ガバナンスの観点を中心して、記載項目が詳細になり、増加しましたが、東証の審査もそれに伴って、詳細な回答を求められることになると思われます。
 上場審査に向けて、ぜひ当事務所までご相談ください。


以 上