過去の新法・新判例

2018年12月01日

ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件最高裁判決(最高裁平成30年6月1日)~労働契約法20条を巡る初めての最高裁の判断~

弁護士 山本 佑

1 はじめに

 安倍晋三政権では、働き方改革の柱の一つとして「同一労働同一賃金の実現」を掲げ、正規非正規間の待遇差の解消を進め、2018年6月29日には、働き方改革関連法案が可決されました。
 このような法案審議も佳境を迎えていた中、同年6月1日、労働契約法(以下「労契法」)20条の解釈をめぐる二つの最高裁判決(ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件、以下合わせて「両判決」)が出されました。
 いずれの事件も、無期労働契約の正社員と有期労働契約社員の非正社員との間の賃金格差が争われたものであり、注目を集めていたものです。
 そこで、本コラムでは、まず、労契法20条の概略をご説明した上で(後記「2」)、同条に関して両判決が示した解釈(後記「4」)及び同解釈に基づく具体的な判断(後記「5」)をご紹介し、最後に両判決を踏まえた実務上の留意点について検討いたします(後記「6」)。


2 労契法20条

 労契法20条は、①職務の内容、②職務の内容及び配置の変更範囲、③その他の事情を考慮して「不合理」と認められる待遇差を禁止しています。
 この条文は、有期労働契約と無期労働契約の区別が、非正規労働者と正規労働者の区別の代替指標として用いられているものの、既存の法律では1、格差改善の実際的効果に乏しいとの批判を受けて作成されたものであり、社会改革的規定と評されているものです2
 もっとも、この条文をめぐっては、複数の下級審裁判所で判決が出ていましたが、裁判所により同条の解釈が分かれることがあり、本コラムでご紹介する長澤運輸事件のように、第一審と第二審とで正反対の判断をする場合もあったことから、最高裁による解釈の統一が待たれていました。


3 事案の概要等

(1)ハマキョウレックス事件

 当該事件は、運送業等を営むハマキョウレックス株式会社において、有期労働契約を締結している契約社員トラック運転手が、無期労働契約である正社員との間の待遇差が、労契法20条に抵触する不合理な待遇差であると主張して争った事案です。

(2)長澤運輸事件

 当該事件は、運送業等を営む長澤運輸株式会社において、60歳の定年退職後に、継続雇用制度によって有期雇用契約を締結し、嘱託社員として再雇用された乗務員らが、(定年前の)無期労働契約である正社員との待遇差(定年前よりも約24%から20%引き下げられました)が、労契法20条に抵触する不合理な待遇差であると主張して争った事案です。


(3)両事件の異同について

 ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件のいずれも、運輸業等を営む会社に関するケースであり、また、前記労契法20条の要素のうち①職務の内容が同一のケースでした(長澤運輸事件については、②も同一)。
 また、ハマキョウレックス事件は、定年前の世代における待遇差が問題となった事案であるのに対し、長澤運輸事件は、定年前の世代と定年後再雇用者の待遇差が争われた事案です。
 したがって、正規と非正規との待遇差に関する、より一般的なケースは、ハマキョウレックス事件であるといえます。実際、ハマキョウレックス事件は午後2時30分に、長澤運輸事件は同日の午後4時に判決があり、長澤運輸事件では、ハマキョウレックス事件で示した判断と同旨であることを示しつつ判断しました。
 なお、ハマキョウレックス事件の高裁判決(大阪高判平成28年7月26日)及び長澤運輸事件の高裁判決(東京高判平成28年11月2日)は、本コラムにおいても取り上げさせていただいきましたので(http://www.foresight-law.gr.jp/column/backnumber/180104.html)、そちらをご参照ください。


4 労契法20条に関する法的解釈

 ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件が労契法20条の解釈について明らかにしたのは、次の点です(ハマキョウレックス事件で判示されたものには【事件Ⅰ】、長澤運輸事件で判示されたものには【事件Ⅱ】と表記します)。


(労契法20条の趣旨について)

 ① 労契法20条の趣旨

 労契法20条は、「有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に,職務の内容,当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下『職務の内容等』という。)を考慮して,その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり,職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である」ことを示しました。【事件Ⅰ】【事件Ⅱ】


(労契法20条の要件について)

 ② 「期間の定めがあることにより」の解釈

 「期間の定めがあることにより」とは、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に 関連して生じたものであることをいう」ことを明らかにしました。【事件Ⅰ】【事件Ⅱ】


 ③ 「不合理と認められるものであってはならない」の解釈

 「不合理と認められるもの」とは,労働条件の相違について合理性を求める趣旨であるという見解をとらず、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解する」と判断しました。【事件Ⅰ】【事件Ⅱ】


 ④ 不合理性の判断方法

 不合理性の判断方法については、「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」として、原則として、賃金項目ごとに個別に考慮して判断することを明らかにしました。【事件Ⅱ】
 ただし、「ある賃金項目の有無及び内容が,他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ,そのような事情も」不合理性の判断にあたり考慮され得るとしました。【事件Ⅱ】
 また、定年後再雇用者であることが、「その他の事情」(前記「2」③)の一つとなることを明らかにしました。


 ⑤ 主張立証の責任分配

 不合理性の判断は、「規範的評価を伴うものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される」ことを明らかにしました。【事件Ⅰ】


(労契法20条の効果について)

 ⑥ 労契法20条違反となる場合の効果

 最高裁は、労契法20条の法的性格として、「私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、労働条件の相違を設ける部分は無効となるものと解される」ことを明らかにしました。【事件Ⅰ】
 もっとも、無効になった労働条件について、労契法20条の効力により、「当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である」とも判示しました。【事件Ⅰ】【事件Ⅱ】
 これは、労働契約を無効にする強行的効力については認めたものの、厚生労働省の通達が肯定していた、補充的効力(無効となった条件を他の規定で補充する効力)について否定したものです。
 なお、無効となった労働条件について、正社員の就業規則の合理的解釈として、非正社員に適用できるか否かについては、当該事件の事案においては困難であると判断しました。【事件Ⅰ】【事件Ⅱ】


5 具体的な不合理性判断

 いずれの事件においても、不合理性を判断する手順としては、まず、当該賃金の趣旨がどのようなものであるかを支給要件や内容などから特定し、その上で、各賃金の趣旨と照らし合わせて不合理と認められるか検討しています。
 各事件について最高裁が判断した結果は次のとおりです。

ただし、本稿では、裁判所が認定した各賃金の趣旨及び当該趣旨に照らした具体的な判断経過は割愛させていただきます。

 ※ 不合理:× 不合理でない:〇 判断なし:- 


(1)ハマキョウレックス事件について

 ハマキョウレックス事件では、第一審は、通勤手当の格差のみ労契法20条違反を認めましたが、第二審は、住宅手当及び皆勤手当を除き、全て同条に反するとし、最高裁は、皆勤手当も同条に反するとし、住宅手当のみ同条に反しないとしました。
 当該事件で争われた具体的な待遇差と最高裁の判断は次の表のとおりです。
正社員 契約社員 最高裁の判断
無事故手当 1万円 なし ×
作業手当 1~2万円 なし ×
給食手当 3500円 なし ×
住宅手当 原則2万円 なし
皆勤手当 1万円 なし ×(差戻し)
家族手当 あり なし
通勤手当 通勤距離に応じて支給 一律3000円 ×
定期昇給 原則あり 原則なし
賞与 原則あり 原則なし
退職金 原則あり 原則なし

(2)長澤運輸事件について

 長澤運輸事件では、第一審では労契法20条違反を認めて請求を認容し、第二審では、一転して請求が棄却されましたが、最高裁は、精勤手当が同条に反するとし、時間外手当計算の基礎に精勤手当を含めないことによる損害に関する審理を原審に差し戻しました。
正社員 嘱託社員(定年後再雇用) 最高裁の判断
基本給(基本賃金) ・在籍給(1年目を8万9100円とし、在籍1年につき800円を加算。上限は12万1100円) 12万5000円
能率給(歩合給) ・10トンバラ車:4.60%
・12トンバラ車:3.70%
・15トンバラ車:3.10%
・バラ車トレーラー:3.15%
・12トンバラ車:12%
・15トンバラ車:10%
・バラ車トレーラー:7%
職務給 ・10トンバラ車:7万6952円
・12トンバラ車:8万552円
・15トンバラ車:8万2952円
・バラ車トレーラー:8万2900円
なし
精勤手当 5000円 なし ×
住宅手当 1万円 なし
家族手当 配偶者5000円、子1人につき5000円(2人まで) なし
役付手当 班長:3000円
組長:1500円
なし
無事故手当 5000円 5000円
超勤手当 あり あり ×(差戻し)
通勤手当 あり あり
調整給 なし 老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について、月額2万円 基本給等と合わせて考慮
賞与 基本給の5か月分 なし
退職金 3年以上勤務の者に支給 なし

6 実務上の留意点

 両判決は、上記のとおり労契法20条に関する解釈及び具体的な判断を示しました。
 これらのうち、その趣旨(上記「4」①)は同条の立法過程や通達で述べられていたことを、その効力(同⑥)、「期間の定めがあることにより」の意味(同②)及び主張立証責任(同⑤)については、近似の多くの裁判例で述べられていたことを、最高裁として確認したものであり、両判決の重要な意義・特徴は、本条の「不合理」性の意味及び判断方法(同③、④)について明らかにした点にあると評されているところです3
 以上をもとに、両判決における実務上の留意点としては、次の点が挙げられます。

(1)職務内容が同一の事案であったこと

 両判決は、ともに、正規と非正規との間の職務内容が同じ(前記「2」①)という事案でした。もっとも、一般的には、職務内容や人材活用の方法が異なるケースも多いと思料します。
 それでは、職務内容が異なる場合はどうなるのか、この点について、両判決では争点にならず、最高裁は論じていませんので、今後の裁判例の集積を待つ必要があります。

(2)手当の趣旨と必要性を検証する必要

 両判決では、不合理性の判断において「賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」という立場を明らかにしました(上記「4」④)。したがって、会社としては、複数の賃金項目がある場合に、ア)賃金項目ごとの趣旨の整理、イ)趣旨に照らした賃金項目ごとの不合理性の検討、ウ)不合理性を否定できない場合の是正という対応が必要となります4
 また、両判決は、あくまでも当該事案における各賃金の不合理性について判断したものです。手当の名称が同じであっても、手当の趣旨や賃金制度上の位置付け等は会社によって異なる場合がありますので、賃金が不合理か否かは、手当の名称から一律に判断することはできません。
 各会社における具体的な賃金が不合理であるか否かは、個別具体的に事案に応じて判断する必要があることに留意が必要です。

(3)法改正との関係

 冒頭でご紹介した法改正に伴い、労基法20条は削除され、パートタイム労働法は、パートタイム・有期雇用労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」以下「改正法」)に改正され、労契法20条の規定は改正法8条に包含されます。
 改正法は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)に施行予定であり、施行後には、労契法20条ではなく、改正法8条により規律されることになります。
 もっとも、両判決で述べられた内容は、改正法を部分的に先取りして判断を行ったものとする評価があり5、また、両判決は、今後の裁判実務のみならず改正法の解釈にも影響を与えると指摘されていることから6、会社は、両判決をもとに改正法施行後も視野においた対応を検討する必要があると思料します。

7 最後に

 正規と非正規労働者の待遇差をめぐる争いは、本コラムでご紹介した両判決において一定の判断が示されたとはいえ、未解決の法的論点も多く、また、今後は改正法の施行に伴う対応も検討する必要があります(両判決の評価及び実務上の留意点についても多くの評釈があるところです7)。
 このように、流動する裁判例や法改正に的確に対応していくには、専門的知見に基づいて、正確な情報を把握していくことが必要と思料します。
 ご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。


以上
    __________________
    1 労契法3条2項、パートタイム労働法8条から11条等
    2 菅野「労働法」(11版補正版)334頁、荒木ほか「詳説 労働契約法」(第2版)227頁。
    3 水町「有期・無期契約労働者間の労働条件の相違の不合理性~ハマキョウレックス(差戻審)事件・長澤運輸事件最高裁判決を素材に~」(労働判例1179号)5頁。
    4 平越「時言 労働契約法20条の不合理性の審査」(労働経済判例速報No2346)2頁。
    5 前掲注3水町
    6 島田「時論 パートタイム・有期雇用労働法の成立と実務への影響 長澤運輸事件/ハマキョウレックス事件最高裁判決をうけて」(ジュリスト1523号)75頁
    7 本判決の評釈として、別注掲載のもの以外に、峰「ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件の最高裁判決と実務への影響」(労務事情1367号)26頁、本久「重要労働判例解説」(季刊労働法262号)238頁、橘「ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件の最高裁判決」(ビジネス法務2018年9月号)22頁、「重要判例紹介」(金融・商事判例1553号)8頁、大内「労働契約法20条をめぐる最高裁二判決の意義と課題」(NBL1126号)4頁などがある。