過去の新法・新判例

2018年01月04日

正規従業員との関係における“非正規従業員”の労務管理

弁護士 木村 亮介

1 はじめに

 昨今、政府が推進する「働き方改革」によって、企業経営者は、今まで以上に多様で柔軟な働き方の選択可能性を模索することが求められるようになりました。
 2018年は、関係各法の改正に関する議論等を通じて、こうした政府の方針が一層深化するものと見込まれます。1
 一方で、求人倍率が上昇し売り手市場の様相を強めている今、企業にとっても、非正規雇用等の多様な選択肢を有効に活用することで、人手を確保するとともに、労務を効率化し、生産性をさらに高めることが期待できます。
 もっとも、非正規雇用は、従来、労働力の需要変動等に基づく雇用調整を弾力的に行うことや、正規従業員の代替手段として利用されることが多く、正規雇用に劣る処遇が一般的であったことから、これには正規雇用とは異なる規制が設けられています。こうした規制に服する非正規雇用は、その弾力性とは裏腹に、一定の法的リスクを孕んでいます。
 本稿では、こうしたリスクを適切に回避することを目的として、特に有期雇用の非正規従業員に対する労働条件を定める上で注意すべき点を解説いたします。


2 労働契約法20条

 賃金等の処遇は労使間の合意によって決定されることが基本ですが、法は、同一の使用者のもとで、期間の定めがあることにより、無期雇用の正規従業員と有期雇用の非正規従業員との間に、合理性のない労働条件の格差を設けることを禁じています(労働契約法20条)。

(1)「期間の定めがあることにより」

 この「期間の定めがあることにより」とは、裁判例2上、有期雇用従業員と無期雇用従業員の労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることを意味すると解釈されています。
 有期雇用従業員と無期雇用従業員の労働条件が単に相違しているというだけでは、当然に同条の適用を受けるものではありませんが、他方で、使用者が専ら期間の定めを理由にして労働条件に相違を設けたのでなければ同条が適用されないというわけではありません。
 例えば、正社員たる地位と定年退職後の再雇用による嘱託者という地位に基づいて労働条件に区別を設けているのであって、期間の定めの有無を理由として労働条件に相違を設けているわけではない、という言い分は通用しないことを意味します。

(2)規制対象となる労働条件

 規制の対象となる労働条件は、賃金や労働時間のほか、災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等、労働者の待遇一切を包含するものとされています(施行通達第5の6⑵イ)。3
 このような包括的な解釈は、政府の主導する働き方改革実現会議の策定した同一労働同一賃金のガイドライン案でも採用されており、同ガイドライン案が働き方改革における法改正等の基礎になることから、今後も同様の解釈が通用するものと見込まれます。


3 違法とされる労働条件の相違

 労働契約法20条の適用対象とされた場合、有期雇用従業員と無期雇用従業員の労働条件の相違が不合理であると認められてしまえば、その有期雇用従業員に対する労働条件の定めは違法となります。
 このような労働条件の適法性の分岐点となる「不合理性」について、同条は、①労働者の職務の内容(業務内容と責任の程度)、②職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)、及び、③その他の事情の3つの視点から判断することと定めています。
 このような総合衡量的な判断は非常に多義的ですが、その考え方を理解する上で参考になる裁判例があります。

(1)長澤運輸事件(東京高裁平成28年11月2日判決)

 本件は、運送事業を営む会社において、定年退職後に期間1年の有期雇用契約を締結し嘱託社員となった乗務員らが、無期雇用契約を締結する正規の乗務員らとの間に賃金等の点で不合理な相違が存在すると主張して、正社員たる雇用契約上の地位があることの確認や差額賃金相当の金銭の支払を求めて会社を訴えた事案です。
 第一審判決が出された当時、本コラムでもテーマに取り上げさせていただきました。4第一審は原告乗務員らの請求を認容したため、賃金減額を前提とした定年後再雇用制度を採用する多くの企業に多大なインパクトを与えました。
 しかし、控訴審は、このような第一審の判断を覆し、原告乗務員らと正規の乗務員らとの間の労働条件の相違の不合理性を否定しました。

 第一審が、先に挙げた3つの視点のうち、①労働者の職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲の2点について、原告乗務員らと正規の乗務員らとの間に全く違いがなく、③その他の事情を勘案しても賃金等の相違を設けることに合理性を見出すことができない旨を判示したのに対し、控訴審は、定年後再雇用制度において賃金が一定程度減額されることが我が国の通例であり、これが社会的に容認されていることや、本業において赤字である会社の経営状況、労使間交渉を通じた減額幅縮小の努力、同業同規模の他社における賃金減額割合との比較の結果等の点に鑑み、不合理性を否定しました。

 第一審は、「不合理性」判断に関する3つの視点のうち、①労働者の職務の内容、及び、②職務の内容・配置の変更の範囲を重視して、これらの点が有期雇用従業員と無期雇用従業員との間で同一性を有する場合には、③その他の特段の事情が存在しない限り不合理性が認められるとする判断枠組を採用しました。法が不合理性判断の視点として敢えて①及び②を明示的に規定していることから、これらの要素を重視すべきとする考え方に立脚しています。
 一方で、控訴審は、先述のような不合理性判断をする上で、①乃至③の考慮要素に関する優劣関係に言及せず、全ての考慮要素を総合的に勘案しています。このような判断枠組は、有期雇用従業員と無期雇用従業員との間の労働条件の相違の不合理性を柔軟に判断することができるようになる反面、①職務の内容、及び、②職務の内容・配置の変更の範囲の2点について有期雇用従業員と無期雇用従業員との間に違いを設けたとしても、③その他の事情によっては、労働条件の相違が不合理であると判断される可能性があることに注意が必要です。



(2)ハマキョウレックス事件(大阪高裁平成28年7月26日判決)

 本件は、運送事業を営む会社において、所謂契約社員として有期雇用契約を締結していた乗務員が、無期雇用契約を締結する正規の乗務員らとの間に賃金の点で相違が存在すると主張して、その不合理性が争われた事案です。

  裁判所は、原告乗務員と正規の乗務員らとの間で、業務内容に大きな相違があるとは認められないものの、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動、人材登用の可能性といった人材活用の仕組みに基づく相違が存在することを理由に、個々の労働条件ごとにその相違の不合理性を判断することを相当としました。

その上で、無事故手当や休職手当、通勤手当等については、①職務の内容、及び、②職務の内容・配置の変更の範囲と関連する性格のものではなく、これらに相違を設けることは不合理であると判断する一方で、住宅手当や皆勤手当の相違について不合理性を否定するなどしました。

  労働契約法の施行通達は、同法20条の不合理性の判断について、個々の労働条件ごとに判断することを定めています(施行通達第5の6⑵オ)。

  本件は、このような施行通達の考え方に従った判断であると評価できます。

 このような個々の労働条件ごとに分けた判断の方法は、職務給や各種手当等を賃金全体として捉えて不合理性の判断を行った長澤運輸事件(控訴審)の考え方と一見して異なります。

 長澤運輸事件では、①労働者の職務の内容、及び、②職務の内容・配置の変更の範囲の2点について、原告乗務員らと正規の乗務員らとの間に相違が認められなかった事案であることから、学説には、個々の労働条件ごとに慎重に相違の不合理性を判断すべきであったと指摘するものが存在します。5



(3)今後について

 長澤運輸事件では、多くの企業に多大なインパクトを与えた第一審判決が控訴審において破棄されましたが、一部の学説には控訴審の判断に対する批判も存在します。判断枠組を検討する限り、第一審判決と控訴審判決のいずれについても賛否両論あるところです。6
 長澤運輸事件及びハマキョウレックス事件のいずれについても、上告または上告受理申立がなされており、この点について最高裁の統一的な判断が待たれるところです。



4 労働条件の相違が違法とされた場合の処理

 最後に、万が一、有期雇用従業員と無期雇用従業員の労働条件の相違が不合理であり違法であると判断された場合の処理について説明します。
 労働条件の相違が不合理であるとされた場合、当該有期雇用従業員に対する従前の労働条件が無効とされることについて、解釈に争いはありません(施行通達第5の6⑵カ)。
 もっとも、当該有期雇用従業員に対し当然に無期雇用従業員の労働条件が適用されるか否かについては議論があります。
 施行通達は、当然に無期雇用従業員の労働条件が適用されることについて肯定的な見解を示していますが(施行通達第5の6⑵カ)、先に参照した裁判例(ハマキョウレックス事件)は、当該有期雇用従業員に無期雇用従業員の労働条件を適用する上で、労働契約法20条が、これを肯定する明文を置いていないことを根拠に、慎重な立場を示しています。同裁判例は、賃金の一部について相違の不合理性を認めた上で、当該賃金相当額についての不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を認めたにとどまり、当然に無期雇用従業員の労働条件と同様の契約に基づく賃金請求を認容したわけではありません。
 しかし、例えば、有期雇用従業員または無期雇用従業員の就業規則において、有期雇用従業員の労働条件の空白部分に無期雇用従業員の就業規則等が適用される旨の規定を読み込むことができる場合等には、有期雇用従業員に対する従前の労働条件が無効とされた場合に、無期雇用従業員の就業規則等がこれを補充する形で適用されてしまう可能性があることに留意する必要があります。
 したがって、有期雇用従業員の労働条件そのものだけでなく、就業規則等の適用関係についても整理して把握することが重要です。



5 さいごに

 非正規雇用は、有効に活用することで労務の効率化や生産性向上を期待できる有益な手段です。
 しかし、非正規雇用を取り巻く法規制の解釈は未だ確立されているとは言い難く、新たな裁判例の登場や政府による働き方改革推進の中で流動的な状態にあります。
 くわえて、働き方改革によって、実態に応じた「同一労働同一賃金」の考え方が一層進んでいくことが予想されますので、今後はさらに、各種手当ごとの目的や支払基準、金額設定基準等について賃金構成の確認と見直しを進めていく必要があります。
 専門的知見に基づいて、そのようなトレンドを的確に把握し、労務を構築することが、適切なリスクヘッジにつながります。
 ご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。



以 上

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  1. 働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)
  2. 東京高裁平成28年11月2日判決
  3. なお、解雇や配転、懲戒処分等の個別的な人事措置については、労働契約の内容として定められるものではないから、労働契約法20条にいう「労働条件」に含まれないとする見解もある(菅野和夫『労働法〔第11版補正版〕』)。
  4. 2016年8月1日付マンスリーコラム
  5. 土田道夫『労働契約法〔第2版〕』
  6. 前掲注3菅野、前掲注5土田