過去の新法・新判例

2017年10月01日

「※効果には個人差があります」では済まない?消費者向け広告の注意点
(消費者庁「打消し表示に関する実態調査報告書」の公表を受けて)

弁護士 前野 孝太朗

1 はじめに


 多くの方は、「※個人の感想であり、効果には個人差があります」、「※3年以内に解約をする場合、違約金が発生します」、「※エリアによってはご利用いただけない場合があります」などの表示を多くの方はご覧になった、あるいは自社のサービスの宣伝に利用されているものと思います。
 多くの消費者向け広告では、商品やサービスの宣伝文句(「全品半額」、「全額返金」などのいわゆる強調表示1)の下に、小さく上記のような例外を示す表示(いわゆる打消し表示2)を設けています。
 しかし、打消し表示は、単に記載すれば足りるものではありません。

 この点について、消費者庁は、平成29年7月14日に、「打消し表示に関する実態調査報告書」(以下、「報告書」といいます。)を公表し、打消し表示に関する考え方を整理しています。
 本稿では、報告書における消費者庁の考え方を簡単にまとめてご紹介いたします。


2 打消し表示の必要性


 報告書の内容のご紹介の前提として、「そもそも何故打消し表示をする必要があるのか」という点を確認しておきましょう。

 消費者向けの商品やサービスの広告等の表示3は、景品表示法という法律4によって、その内容が規制されています。
 概要だけご説明しますと、景品表示法は「商品・サービスの内容や取引条件について実際のもの等よりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示」を不当表示として禁止しています(それぞれ「優良誤認表示」、「有利誤認表示」と呼ばれます。)。

 ここで、打消し表示の必要性を考えるため、一例として、「スマートフォンXの月額使用料は2000円だが、Aオプションに加入すれば1000円に値下げする」というキャンペーンに関するweb広告を考えてみましょう。

 広告には何よりインパクトが重要ですから、企業としては、「Aオプションに加入すれば月額使用料1000円!」ではなく、「月額使用料1000円!」を大きな文字で記載したいところです。
 ただ、そうしますと、広告を見た消費者は、「スマートフォンXの月額使用料は1000円である」との認識を持ちますので、商品の取引条件が実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示(有利誤認表示=不当表示)と判断される可能性があります。
 そこで、下に「※Aオプションへの加入が必要です」と記載することで、消費者に「Aオプションに加入すれば、スマートフォンXの月額使用料は1000円である」との認識を持たせる広告(不当表示でない表示)とする必要があるのです。

 このように、打消し表示は、景品表示法が禁止する「一般消費者に誤認される表示」を、景品表示法上問題のない、いわば「一般消費者に誤認されない表示」にするために、記載する必要があるのです。
 皆様の感覚からしても、先程の例の「月額使用料1000円!」は実際のキャンペーンとは違う内容なのですから、打消し表示で補足する必要があることは、理解しやすいのではないかと思います。


3 打消し表示に関する留意点


 以上のように、打消し表示は不当表示でない表示とするために必要となりますが、同時に、広告効果を阻害する記載ともなります。
 そのため、当然、企業としてはそのような打消し表示を大きく記載したくはありません。
 上記の例でいえば「※Aオプションへの加入が必要です」という点は、薄い色や小さい文字で記載したいと考えることも企業側の心理としては当然あり得るところです。
 しかし、他方で、あまりに認識しにくい形で打消し表示を記載すると、今度は一般消費者に誤認させる表示となり、不当表示となります。

 そこで、消費者庁は、打消し表示をどのように行うべきかの考え方を整理して、冒頭申し上げた報告書で公表しています5
 報告書では①打消し表示の表示方法、②打消し表示の表示内容、③体験談を用いる場合の打消し表示の3つの考え方をまとめていますので、以下それぞれ概観します。

 なお、以下において問題とされている表示は、そのような表示によって、「商品・サービスの内容や取引条件について実際のもの等よりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるとき」に景品表示法上の不当表示となる可能性があるものです。
 以下の表示が直ちに不当表示になるわけではありませんので、ご留意ください。


(1)①打消し表示の表示方法


ア 全ての媒体に共通して問題となる表示方法
 ● 打消し表示の文字の大きさ
   ・一般消費者が打消し表示を見落としてしまうほど文字が小さい場合
 ● 強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス
   ・強調表示が大きな文字で表示されているのに対して、打消し表示が小さな文字で表示されており、強調表示を見た一般消費者が当該強調表示に対する打消し表示に気付くことができないような場合
 ● 打消し表示の配置箇所
   ・打消し表示が強調表示から離れた場所に表示されており、一般消費者が打消し表示に気付かないような場合
   ・打消し表示に気付いたとしても、当該打消し表示が、離れた場所に表示された強調表示に対する打消し表示であると認識できないような場合
 ● 打消し表示と背景との区別
   ・打消し表示の背景が無地の単色ではなく、複数の色彩が入り組んでおり、打消し表示の文字と背景との区別がつきにくいような場合

イ 動画広告において問題となる表示方法
 ● 打消し表示が含まれる画面の表示時間
   ・打消し表示が含まれる画面の表示されている時間が短く、強調表示を読んでいるだけで画面が切り替わってしまうような場合(打消し表示を読む時間が全くない場合)
   ・強調表示と打消し表示の文字量が多く、打消し表示を読んでいる途中で画面が切り替わってしまうような場合(打消し表示の表示されている時間内に打消し表示を読み終えることができない場合)
 ● 強調表示と打消し表示が別の画面に表示されるか
   ・強調表示が表示された後、画面が切り替わって、直後の画面に打消し表示が表示されており、一般消費者が打消し表示に気付かないような場合
   ・打消し表示に気付いたとしても、当該打消し表示が、別の画面に表示された強調表示に対する打消し表示であると認識できないような場合
 ● 音声等による表示の方法
   ・文字と音声の両方で表示された強調表示が一般消費者に強い印象を残すのに対し、文字のみで表示された打消し表示に一般消費者の注意が向かないような場合
   ・打消し表示と同一画面内に表示された人物等の部分に一般消費者の注意が向けられ、打消し表示に注意が向かないような場合
 ● 複数の場面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するか
   ・複数の場面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するとき6

ウ Web 広告において問題となる表示方法
   ・強調表示が表示されている位置から1スクロール下7に打消し表示が表示されており、一般消費者が打消し表示に気付かない場合
   ・強調表示が表示されている位置から1スクロール下に打消し表示が表示されており、打消し表示に気付いたとしても、当該打消し表示が、別の画面に表示された強調表示に対する打消し表示であると認識できないような場合

(2)②打消し表示の表示内容


ア 例外型8の打消し表示
 ・一般消費者が打消し表示を読んでも具体的な例外事項の内容を理解できない場合

イ 別条件型9の打消し表示
 ・一般消費者が打消し表示を読んでもその内容を理解できない場合
 ・特に、適用条件や期間の異なる複数の割引が存在する複雑な料金体系の契約において、全ての割引が適用された割引料金とともにある特定の割引の期間だけが強調される一方、割引に関する別途の条件が打消し表示に記載されており、打消し表示を読んでもその内容を理解できない場合

ウ 追加料金型10の打消し表示
 ・一般消費者が打消し表示を読んでもその内容を理解できない場合

エ 試験条件型11の打消し表示
 ・打消し表示の内容が外来語、業界独自の用語、技術に関する用語などの専門技術的なものを含み、一般消費者が打消し表示の内容を理解できないことにより、表示された効果、性能等(文章、写真、試験結果等から引用された数値、イメージ図、消費者の体験談等を含めた表示全体から一般消費者が認識する効果、性能等)と試験・調査等によって客観的に実証された内容とが適切に対応していないことを理解できない場合

(3)③体験談を用いる場合の打消し表示


 ・体験談等を含めた表示全体から「大体の人に効果がある」と一般消費者が認識を抱くことに留意する必要がある。
 ・試験・調査等によって客観的に実証された内容が体験談等を含めた表示全体から一般消費者が抱く認識と適切に対応している必要がある
 ・実際には、商品の使用に当たり併用が必要な事項(例:食事療法、運動療法)がある場合や、特定の条件(例:BMI の数値が25 以上)の者しか効果が得られない場合、その旨が明瞭に表示される必要がある。
 ・商品の効果、性能等に関して事業者が行った調査における(ⅰ)被験者の数、(ⅱ)そのうち体験談と同じような効果、性能等が得られた者が占める割合、(ⅲ)体験談と同じような効果、性能等が得られなかった者が占める割合等を明瞭に表示すべきである。

(4)若干の補足


 以上の通り、消費者庁は、表示の方法や内容について、かなり細かく考え方を示しておりますが、先に申し上げました通り、結局このような表示が、「商品・サービスの内容や取引条件について実際のもの等よりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示」といえるかが、不当表示のメルクマールとなります。
 すなわち、上記報告書の考え方を遵守しても、個別の表示が、「消費者に誤認が生じる表示である」と判断される可能性もありますので、ご留意ください。

 ただ、上記報告書の考え方を遵守すれば、一般論としては、不当表示となる可能性は低くなるとは考えられますので、まずはこちらをご参照頂き、消費者向けの表示の方法・内容をご検討いただくのがよろしいかと存じます。
 この点、消費者庁が報告書で提言する、社内での研修などによる景品表示法の知識の習得、社内チェック体制の見直し、モニター等による一般消費者の視点の活用等は不当表示の防止策として有効と思われますので、ご検討ください。

5 おわりに


 以上の通り、今回、消費者庁は、表示の方法や内容についてかなり細かく考え方を示しておりますが、これまでの考え方を変えるものではないと思われます。
 その意味で、今回の報告書は、緊急に対策をとる必要がある類のものではありません。

 ただ、景品表示法上禁止されている不当表示を疑われますと、消費者庁の調査を受け、措置命令(再発防止策の履践や社内の周知徹底等)を発令される可能性や課徴金を課される可能性があります。
 また、景品表示法の違反事例は消費者庁HPにて公表されますので、企業のレピュテーション低下の危険もあるところです。
 従いまして、この報告書を参照し、より慎重に消費者向けの表示をお考えいただくのがベターであることはいうまでもありません。

 消費者向けの表示についてご不安やお悩みなどがございましたら、お気軽にご相談ください。



以 上
    __________________
  1. 「事業者が、自己の販売する商品・サービスを一般消費者に訴求する方法として、断定的表現や目立つ表現などを使って、品質等の内容や価格等の取引条件を強調した表示」をいいます(報告書注1(1頁))。
  2. 「強調表示からは一般消費者が通常は予期できない事項であって、一般消費者が商品・サービスを選択するに当たって重要な考慮要素となるものに関する表示」をいいます(報告書注2(1頁))。
  3. チラシ、パンフレット、web広告、ポスター、ダイレクトメール等、およそ企業が消費者を誘引する際に利用するものはこの「表示」に含まれます(「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」第2項(昭和37年公取委告示第3号))。
  4. 正確には、「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。
  5. 正確には、平成20年に公正取引委員会が「見にくい表示に関する実態調査報告書―打消し表示の在り方を中心に―」という報告書にて整理していた考え方を改めて整理したものが今回の報告書です。
  6. 動画中の情報量が多いために1回見るだけでは全ての打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できないとされています。
  7. 「下に1スクロール」とは、その時点で表示されている画面の行数分だけ「1 画面分下」に移動させることをいいます(報告書注18(32頁))。1スクロール下は「1画面分下」との理解でよいと思われます。
  8. 商品・サービスの内容や取引条件を強調した表示に対して、何らかの例外がある旨を記載している打消し表示をいいます(報告書第5・1(2)ア(90頁))。
  9. 例えば、割引期間や割引料金が強調される一方、割引期間や割引料金が適用されるための別途の条件が打消し表示に記載されている場合をいいます(報告書第5・1(2)イ(91頁))。
  10. 「全て込み」などと追加の料金が発生しないかのように強調している一方、それとは別に追加料金が発生する旨が打消し表示に記載されている場合をいいます(報告書第5・1(2)ウ(91頁))。
  11. 打消し表示として、試験・調査等によって客観的に実証された内容が書かれている場合をいいます(報告書第5・1(2)エ(91頁))
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