過去の新法・新判例

2017年07月01日

粉飾上場のための仮装工作に加担した取引先担当者が、粉飾上場した会社の株主に対し損害賠償責任を負うとされた事例
(東京地裁平成29年1月27日判決)

弁護士 板井 貴志

第1 事案の概要


 本件は、半導体製造装置の制作販売会社である株式会社エフオーアイ(以下「FOI」)が、架空の売上を計上して粉飾決算を行い、粉飾を告発する匿名の投書があったにも関わらず東京証券取引所マザーズ市場に上場したところ、その後粉飾決算の事実が明らかとなったため、上場時の募集若しくは売出し等に応じて同社の株式を取得した原告らが、損害賠償を求めた事案です。FOIの役員及び主幹事証券会社に対し損害賠償責任が肯定された東京地裁平成28年12月20日判決については、先月のマンスリーコラム(こちら)にて解説しています。
 本稿では、その関連事件として、株主らが、粉飾に加担していたFOIの取引先担当者(以下「Y1」)の共同不法行為責任と、FOIの取引先でY1の使用者であった富士通株式会社(以下「Y2」)の使用者責任を主張して、損害賠償を求めた事件について、判決内容をご紹介します。


第2 事実関係


1 虚偽残高確認書の作成


 FOIは、マザーズ市場への上場を目指すという方針の下に、平成16年3月期以降、架空売上を計上するために、半導体製造装置が納入できたかのような注文書を偽造することとし、FOIの取締役らは、Y2と取引がある以前の勤務先の同僚から、Y2の注文書のコピーを入手し、Y2名義の装置の納品書兼検査票や通帳等を偽造した。
 FOI取締役らは、架空売上計上のためには、偽造注文書等だけでなく、偽造残高確認書が必要であるため、Y2の従業員であるY1の協力を求めることとし、Y1に対し、FOIが上場を目指していること、そのためには大手電機メーカーと取引しているとの実績が必要であること、上場した際にはFOIの株式を売却するなどして約1億円の謝礼をするつもりであること、Y1には絶対に迷惑をかけないことなどを前提に、残高確認書にY2の印鑑を押してもらいたい旨依頼した。
 Y1は、この依頼に応じて平成16年度残高確認書を作成し、また、平成17年3月期も同様の依頼を受け、平成17年度残高確認書を作成した。


2 主幹事証券会社からのヒアリングへの虚偽説明


Y1は、平成17年頃、FOI取締役から、FOIの主幹事証券会社からのヒアリングを受けるよう依頼を受けた。Y1はこれに応じ、FOI取締役らと事前に打ち合わせをした上で、主幹事証券会社の担当者からヒアリングを受け、半導体製造装置の取引があることやリピート機の購入を考えている旨の虚偽の説明をした。


3 公認会計士からのヒアリングへの虚偽説明


 FOI取締役らは、平成17年3月期の会計監査に際して、担当公認会計士より、Y2に対する売掛金が1年以上回収されていないことから、書面による残高確認にとどまらず、Y2の担当者から、実際に納入された装置が使われているのか、返品の可能性があるのか等について直接確認すると伝えられ、これに対し、FOI取締役らは、Y2へのヒアリングとして、Y1との面会を設定した。
 Y1は、平成18年2月23日、FOI取締役らの同席の下、公認会計士からのヒアリングに応じ、装置が納入されていること、実際に装置を使用して製品を製造し販売していること、返品することはないことなどを伝え、装置実物を見せてほしい、との要請に対しては、クリーンルームに入っているため見せることはできない旨回答した。


4 主幹事証券会社からの再度のヒアリングへの虚偽説明


 FOIは、平成19年4月19日、主幹事証券会社を変更したが、Y1は、FOI取締役らから事前に想定問答集の共有を受けた上で、変更後の主幹事証券会社による平成19年12月3日のヒアリングに臨み、想定問答集に基づき、取引開始の経緯や、購入した装置が問題なく動いていることなど、虚偽の説明をした。
 なお、想定問答集には、基本的な対応として、取引内容の詳細は話せないと突き放すこと、FOIの技術の優位性を多く述べること、全ての取引について発注書が発行されていることにすること、などと、虚偽説明を要請する内容の記載があった。


5 上場と上場廃止


 FOIは、平成21年11月20日、マザーズ市場に上場したが、平成22年5月12日、証券取引等監視委員会から金融商品取引法違反の容疑による強制捜査を受けた旨を発表し、同年6月15日、上場廃止となった。


第3 裁判所の判断


 裁判所は、概要、以下のように述べ、Y1の民法719条2項による共同不法行為責任を肯定する一方、Y2の使用者責任は否定しました。


1 Y1の共同不法行為該当性等について


(1) FOIの部外者であるY1は、FOI取締役らからの各依頼に基づき、残高確認書の偽造やヒアリングへの回答といった限られた協力行為をしたにすぎないこと、FOIの粉飾上場がFOI取締役らによる一連の仮装工作により計画的に敢行されたことからすれば、Y1がFOI取締役らとともに共同の不法行為をしたとまで認めることはできない。


(2) しかしながら、Y1による一連の行為により、公認会計士及び主幹事証券会社は、FOIとY2の間に取引が存在するなどの錯誤に陥ったことが認められる。また、東証も、公認会計士や主幹事証券会社の資料・ヒアリング結果を踏まえ、最終的にFOIのマザーズ市場上場を承認した。これに加え、一般的に監査対象企業から独立した情報源で監査人が直接入手した監査証拠の証明力は高いこと、Y1が日本有数の電機メーカーで社会的信用のあるY2の従業員であったこと、Y1がFOIの国内企業の架空売上先の唯一の協力者として、主幹事証券会社からのヒアリングに応じたことを併せ考慮すれば、Y1がした一連の行為は、公認会計士及び主幹事証券会社並びに東証が関わる一連の上場手続において、FOIが粉飾上場を敢行するにあたり相当程度重要な役割を果たしたものといえる。
 よって、Y1は、株主らに対し、民法719条2項に基づき、FOI役員らとの間で共同行為者とみなされ、連帯してその損害を賠償する責任を負う。


2 Y2の使用者責任について


(1) Y2社内には、購買本部、事業本部、財務経理部等が存在し、それぞれ職務を分掌させていたところ、公認会計士からの残高確認書への回答は財務経理部が担当していた。また、残高確認書に押印された印鑑類は、Y1が所属する購買本部が所管するものであり、Y1が経理部の印鑑を冒用して作成したものではないから、Y2が、Y1をして権限外に残高確認書を作成することを客観的に容易な状態においていたとも認められない。


(2) 購買本部に所属するY1には、主幹事証券会社との間の他社企業の上場の際のヒアリングや、公認会計士による残高確認等のためのヒアリングに応じる職務権限も有していなかった。Y1は、FOI取締役らの周到かつ巧妙な準備の下にヒアリングに応じていたものであり、Y2が、Y1をして権限外にヒアリングに応じることを客観的に容易な状態に置いていたとは認められない。


(3) 以上から、Y1がした一連の行為とY1が分掌する本来の職務との間には関連性が認められず、また、Y1がかかる権限外の行為をすることをY2が客観的に容易な状態に置いていたとも認められず、Y1の一連の行為はY2の事業の執行についてされたものとは認められない。


第4 コメント


 本件でY1が虚偽の残高確認書を作成したのは平成16年度と平成17年度に係るもののみであり、上場審査の対象となる直前々期よりさらに前でした。平成18年になされた公認会計士に対する虚偽説明も同様です。また、本件では、FOIは、Y1の協力を得た後、粉飾を告発する匿名の投書などもあり、2回に渡り上場申請と取下げを繰り返しており、FOIの上場は、3回目の上場申請によるものでした。Y1は、これらの点をもって、Y1の行為と損害との間に因果関係がない旨の反論をしています。
 しかし、本件では、幇助による共同不法行為とされたため、Y1が粉飾上場を果たすために「相当程度重要な役割を果たした」ことのみが認定され、これとは別に、因果関係は積極的に認定されていません。「相当程度重要な役割を果たした」か否かの判断には、因果関係の判断が実質的に内包されていると思われますが、判決の行間を読むとすれば、株式会社の決算は前期の数字を前提に積み上がっていくものであること、途中で上場申請が取り下げられた場合でも、次の上場申請における上場審査は、前回の審査を引き継ぐのが通例であることが、Y1の行為が粉飾上場において「相当程度重要な役割を果たした」という認定を支える根拠の一つになっているものと考えられます。


 上場審査において粉飾決算を見抜く契機としては、監査法人による会計監査、主幹事証券会社による証券審査、日本証券取引所自主規制法人による上場審査など、複数のフェーズがあります。
 本件は、直前々期以前の取引に関する確認の在り方、大口売掛先への監査ないし審査の在り方、複数回に渡り上場申請がなされる場合の審査引継の在り方、告発文への対応方法など、上場準備会社の内部監査室、監査法人、主幹事証券会社、東証その他上場実務に携わる全ての関係者にとって示唆に富む判決であると思われますので、ご紹介する次第です。


以 上
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