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2017年06月01日

上場申請会社の粉飾決算について主幹事証券会社の損害賠償責任が肯定された事例
(東京地裁平成28年12月20日判決)

弁護士 春山修平

1 事案の概要


 本件は、半導体製造装置の制作販売会社である株式会社エフオーアイ(以下「エフオーアイ」)が、架空の売上を計上して粉飾決算(以下「本件粉飾」)を行い、虚偽記載のある有価証券届出書を提出して東京証券取引所マザーズ市場に上場したところ、その後粉飾決算の事実が明らかとなったため、上場時の募集若しくは売出し等に応じて同社の株式を取得した原告らが、金融商品取引法や会社法等の規定に基づき、損害賠償請求を求めた事案です。
 訴えられたのは、エフオーアイの役員、募集等を行った元引受証券会社(主幹事証券会社とその他の元引受証券会社)、株式販売を受託した証券会社、会計監査人、売り出しに係る株式の所有者、東京証券取引所、日本取引所自主規制法人など、多数です。このうち、裁判所は、本件粉飾を行った(あるいは発見できなかった)エフオーアイの全役員について責任を認めたのみならず、元引受証券会社のうち主幹事証券会社について、引受審査において求められる相当の注意を尽くしていないと判断し、金融商品取引法上の損害賠償責任を肯定しました(なお、有価証券届出書のうち、財務計算部分の正確性の担保は一次的には会計監査人である公認会計士・監査法人が負うものといえますが、本件では、会計監査人は訴訟係属中に和解をしています。)。
 上場申請に携わる主幹事証券会社について、引受審査の注意義務違反を理由に損害賠償請求が認められた事例は初と思われるため、本稿では、主幹事証券会社の点に絞って判決内容をご紹介いたします。

2 事実経過


(1)1回目の上場申請


 平成19年5月1日、主幹事証券会社は、エフオーアイのマザーズ市場上場手続きについての主幹事証券会社に就任した。
 同社引受審査部(以下「引受審査部」)は、エフオーアイ及び会計監査人に対する質問・ヒアリング、取引先の実査等を行った結果、上場適格に問題はないと判断した。
 平成19年12月20日、エフオーアイは1回目の上場申請を行った。
 自主規制法人は上場に問題はないものと考え、上場承認日を平成20年2月18日と予定した。
 平成20年2月14日以降、東証及び主幹事証券会社に「注文書偽造による巨額粉飾決算企業の告発」と題する匿名の投書(以下「第1投書」)があった。
 自主規制法人は上場に問題はないものと考え、上場承認日を平成20年2月18日と予定した。
 引受審査部は、第1投書についての追加審査を実施し、第1投書には信憑性がないものと判断した。
 そのため、平成20年5月16日に上場承認をして同年6月18日に上場をするというスケジュールで進めることとなったが、同年4月18日、エフオーアイは上場申請を取り下げた。

(2)2回目の上場申請


 平成20年8月5日、引受審査部は、2回目の引受審査を開始し、追加審査を行った結果、改めて同社の上場適格に問題はないと判断した。
 平成20年12月1日、エフオーアイは2回目の上場申請を行った。
 自主規制法人は、改めて上場審査を行ったところ、エフオーアイの取引先の信用懸念から、債権の一部が不良債権化するおそれがあるとして、平成20年3月期を上場直前基準期とする上場は困難との見解を示した。
 平成21年5月19日、エフオーアイは2回目の上場申請を取り下げた。

(3)3回目の上場申請


 平成21年6月16日、引受審査部は、3回目の引受審査を開始し、追加審査を行った結果、改めて同社の上場適格に問題はないと判断した。
 平成21年8月18日、エフオーアイは、3回目の上場申請を行った。
 自主規制法人は、改めて上場審査を行った。
 平成21年10月16日、東証は、上場日を同年11月20日として、マザーズ市場への上場を承認し、公表した。
 平成21年10月16日、エフオーアイは有価証券届出書を提出した。当該有価証券届出書には、無限定の適正意見を表明する会計監査人による独立監査人の監査報告書が添付されていた。

(4)上場承認後


 平成21年10月27日ころ、東証及び主幹事証券会社は、「10月16日付で東証マザーズに上場承認されたエフオーアイの巨額粉飾決算の実態についての告発」と題する匿名の投書(内容は第1投書と概ね同じ。以下「第2投書」)を受領した。
 自主規制法人は、第2投書を受け、改めて預金通帳の写しを調査するなどしたが、上場スケジュールを変更する必要はないと判断した。
 平成21年11月20日、エフオーアイは、マザーズ市場に上場した。
 平成22年5月12日、エフオーアイは証券取引等監視委員会から金融商品取引法違反の容疑による強制捜査を受けた旨を発表し、同年6月15日、上場廃止となった(同年5月21日に破産手続開始申立てをしている。)。

3 本判決の要旨(主幹事証券会社の責任について)


    
  

 本判決は、概要、以下のような判断を示し、主幹事証券会社の損害賠償責任を認めました。

(1)注意義務の内容について


 元引受証券会社は、金商法21条1項4号、17条により、有価証券届出書等に虚偽記載があった場合には、同法21条2項3号又は17条但書所定の免責事由(記載が虚偽等であることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと)を立証しない限り、募集等により株式を取得した投資者の損害を賠償すべき責任を課せられている。
有価証券届出書のうち財務計算部分(公認会計士等による監査証明の対象となった部分を指す)については、その正確性の担保は第一次的には公認会計士等による審査に委ねられるため、元引受証券会社において相当の注意を用いた審査までは要求されない。もっとも、公認会計士等が行った会計監査の信頼性を疑わせるような事情あるいは財務情報の内容が正確でないことを疑わせるような事情が存在するか否かについては厳正に審査する必要があると解される(但し、主幹事証券会社とそれ以外の元引受証券会社とでは行うべき調査の内容は異なってくる。)。

(2)本件粉飾を疑わせる事情についての注意義務違反


 エフオーアイにおいては、売上高の異常な増加や期末期付近における多額の売上計上などの事情が存在したところ、そのような事情が生じていることについての合理的な説明がない場合には、粉飾を疑わせる事情になり得るものである。
 したがって、元引受証券会社は、引受審査において、合理的な説明がなされているかどうかを厳正に審査し、粉飾の疑いを生じさせる事情が存在しないかどうかを慎重に見極めるべき注意義務を負っていたというべきである。
 本件では、主幹事証券会社は、売上高の異常な増加といった事情について、エフオーアイに対する質問・ヒアリング、証券アナリストや会計監査人に対するヒアリングなどを実施しており、その内容及びこれにより把握した情報に照らせば、これらの事情について合理的な説明がなされていると評価し、これを粉飾を示す事情として把握しなかったことはやむを得ないものということができ、この点について相当な注意を怠ったということはできない。

(3)第1投書に対する対応についての注意義務違反


ア 追加審査に関する判示


 第1投書は、差出人は匿名であったものの、粉飾の経緯や偽装の手口を具体的に指摘するほか、エフオーアイの役職者名、決算書上の売上高、取引先、主幹事証券会社の担当者名が実際と合致しているなど、単なる部外者によるいたずらなどではなく、実情をよく知る内部者による通報であることが推認されるものとなっていたから、主幹事証券会社としては、粉飾の疑いを打ち消すだけの十分な引受審査を行うことが要請されていた。
 そして、第1投書は社長や役員が結託し、取引先とも通謀して粉飾を行っている旨を指摘していたところ、仮にそれが事実であれば、エフオーアイに対するヒアリングといった通常の審査では発見が困難であることは明らかであり、会計監査人による残高確認の信頼性にも疑問が生じるのであるから、通常の審査とは異なる方法により、当該情報の真偽を確認すべき注意義務を負うに至ったというべきである。
 この点、主幹事証券会社は、第1投書を受けて、平成15年以降の全販売案件(42件)について、受注、製造から売上、代金回収に至る取引の全過程に係る帳票類及び預金通帳の突合作業を行っている。しかし、その突合作業は各帳票類の写しの提出を受けてその内容を照合したものに過ぎないところ、仮に第1投書が指摘するように役員らが結託して注文書や検収書類を偽造していたとすれば、架空の売上と整合するように偽造された書類の写しの突合作業を行うだけでは売上の真偽を確認することは困難であったことは明らかである。そうすると、主幹事証券会社としては、少なくとも、エフオーアイから注文書や検収書類等の原本、取引先からの入金を示す資料(預金通帳や外国被仕向送金計算書等)の原本等の提出を受け、これらが真正であることの確認を行うべき義務があったというべきであり、そのような確認作業の実施が困難であったことをうかがわせるような事情は見当たらない。
 そして、原本の確認をすれば偽造や粉飾を発見できた可能性がある。
 よって、帳票類の写しの突合作業を行うにとどめた主幹事証券会社の追加審査は、第1投書を受領したことを踏まえた審査としては不十分であったというべきである。

イ 取引先への照会に関する判示


 第1投書においては、取引先として、C社の担当者と示し合わせて虚偽の注文書を発行してもらっている旨が断定的に記載されるなどしていたところ、仮にこれが真実であれば、主幹事証券会社や会計監査人が行ったC社の実査や会計監査人が行った残高確認の信頼性が根底から覆るものである。そうすると、主幹事証券会社としては、少なくとも第1投書に記載されている取引先については、売上の実在を確認するための追加調査を行うべき義務があったというべきである。
 この点、主幹事証券会社は、エフオーアイとの間で守秘義務を含む契約を締結しているため、引受審査において入手したエフオーアイに関する情報を第三者に開示することは禁止されていたものであり、直接取引先に対し取引の有無を照会することは困難であったと考えられる。しかしながら、例えば、会計監査人又は監査役に依頼するなどして照会を行う方法が全くなかったとは考えられないし、エフオーアイの役員に対し取引先に対する照会についての了解を求め、その対応を見るなどの方法も考えられたのであって、守秘義務を理由に取引先に対する何らの調査も行わなかった対応は不十分であったというべきである。

(4)第2投書に対する対応についての注意義務違反


 主幹事証券会社は、第2投書を受領した際、その内容が第1投書をほぼ同一であるということから、何らの追加審査も行わなかった。
 しかしながら、前記のとおり第1投書に対する追加調査は不十分であったところ、主幹事証券会社は、第2投書を受領したことにより改めて売上の実在性についての調査を行う機会があったというべきであるのに(特に、エフオーアイにおいて売掛金の回収が進まない傾向は平成21年に入って一層顕著になっていたこと、自主規制法人による預金通帳の原本の提示要請に抵抗した役員の態度は見方によっては不審な態度と見ることも可能であったことからすれば、この段階で改めて売上の実在性についての調査を行うことも十分に考えられた。)、何らの追加審査を行わなかったのであるから、この点においても注意を尽くしていたとは認めがたい。

(5)結論


 以上によれば、主幹事証券会社は、引受審査について、相当な注意を用いてこれを行ったということはできないのであって、有価証券届出書等の虚偽記載について、相当な注意を用いたにもかかわらずこれを知ることができなかったものと認めることはできないから、金商法21条1項4号及び17条の責任を負う。

4 考察


 本件は、粉飾額が115億円以上に上り、売上高の97.3%を架空売上げが占めるという異常な事案であり、上場後わずか半年で当該粉飾が判明し上場廃止になったもので、上場審査手続き及び市場の信頼性を大きく毀損しかねない重大な事件といえます。
 上場時に提出される有価証券届出書や目論見書は、投資家の投資判断の根幹をなす資料であり、金商法上、虚偽記載については会計監査人や元引受証券会社等に重い責任が課せられています。
 本判決は、有価証券届出書の財務計算部分についての正確性の担保は、第一次的には公認会計士等による審査に委ねられるとしていますので、通常は、主幹事証券会社においては財務計算部分について相当な注意を用いた審査までは要求されていません。他方で、本判決は、日本証券業協会が定める規則等を参照した上で、主幹事証券会社は、公認会計士等が行った会計監査の信頼性を疑わせるような事情等の有無については審査が必要であるとしたものであり、上場申請手続きにおける主幹事証券会社の役割に照らせばこの部分の判示は妥当なものと言えます。
 もっとも、本件では、売上高の異常な増加など、本件粉飾の存在を疑わせる事情がいくつもありましたが、それらについては審査の上合理的な説明を受けていたとして、主幹事証券会社に注意義務違反はないものとされています。主幹事証券会社に注意義務違反が認められたのは、匿名投書に対する追加審査の方法についてであり、匿名投書の記載内容に照らせば原本確認が必要であったのにそれを怠ったという点と、取引先への照会を行えていないという点に留まります。
 その意味では、本件は、事実を詳細に記した告発文の存在という特殊な事実関係下での事例判断になりますし、主幹事証券会社の注意義務がいたずらに広く解されたものではなく、直ちに引受審査一般の運用に改善が求められるものではありません。
 とはいえ、上場申請手続きの過程においては特殊な事情が生じることもないではなく、主幹事証券会社をはじめ各関係者は、本判決を警鐘と捉え、それぞれのケースに応じて、弁護士等の専門家と協議の上慎重に対応を行っていくことが求められるものといえます。


以 上