過去の新法・新判例

2017年05月01日

新設分割と設立会社の破産を含む一連の手続きについて、株主間協定違反や役員の任務懈怠責任が否定されたケース

弁護士 小林弘和

1 はじめに


 新設分割により唯一の収益事業たるFRP事業を失ったNBL(エヌビイエル株式会社)の株主兼元NBL取締役ら(以下「原告ら」)が、同人らの解任決議や新設分割承認決議に賛成した過半数株主(日立造船株式会社。以下「日立造船」)やNBLの新代表取締役(以下「被告ら」)に対し、株主間協定違反、善管注意義務・忠実義務違反等を主張し、不法行為等に基づく損害賠償を請求していた訴訟につき、平成28年2月19日、原告らの請求をすべて棄却する判決がなされました(確定。大阪地方裁判所平成26年(ワ)第49号、損害賠償等請求事件)。

 この判決(以下「本判決」)は、本件に特有の事例判断を示すものではありますが、株主間協定違反や、新設分割と新設会社の株式譲渡による会社財産の毀損(NBLは新設分割後に破産)が問題となった一事例として、参考とすべきものと思われますので、以下、「株主間協定」やいわゆる「濫用的会社分割」のご説明と共に、ご紹介します。

2 株主間協定とは?濫用的会社分割とは?


 まず、本件で問題となっている「株主間協定」(株主間契約など、呼び方は様々です。)とは、ベンチャー企業などが投資家等の第三者から出資を受ける際などに、その第三者(出資者)と、既存の株主、出資を受ける会社自身、その経営者らとの間で行う、その出資後の会社経営に関する一定の事項についての約束です。
 例えば、特に出資者の議決権比率が50%を下回る場合などに、取締役の選任権や、議決権比率に影響を及ぼすような一定の重要事項に関する事前承諾制(拒否権)、株主間協定違反の場合の株式買取義務などが定められます。
 本件でも、原告ら既存株主ないしNBL経営陣と、NBLに出資を行った日立造船との間で、「NBLのFRP事業の推進や拡大を図るために協力関係を構築すること等を目的として」、この株主間協定が締結されています。

 一方、「濫用的会社分割」とは、近時問題となっている実質的な債務の減免を得るために会社分割制度を用いるケースが、それにあたります。
 株主や取締役に対する損害賠償が問題となっている本件には直接かかわりませんが、平成26年の会社法改正で新制度が設けられましたので、本件に関連する事項として、簡単に説明いたします。
 まず、会社分割(吸収分割・新設分割)を行う場合、会社法は、原則として、債権者保護手続きの実施を要求し(会社法第789条、第810条)、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できない債権者を保護しています。
 ここで、会社法が「会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できない債権者」に限って保護を与えているのは、分割会社には、分割の対価として設立会社・承継会社の株式などが割り当てられるために、(その対価が適正であれば)債務の引当てとなる分割会社の純資産は不変であるため、会社分割後にも分割会社に債務の履行を請求できる債権者を保護する必要がない、という考え方からです。これと同様の理由から、新設分割の場合で、設立会社に分割会社の債務が承継されないか、分割会社が設立会社に承継される債務について併存的債務引受けをする場合にも、債権者保護手続きは不要とされています(会社法第810条第1項第2号)。
 そのため、会社法上、会社債権者の関与を排したまま、会社が債務を免れるために会社分割を行うことも可能であり、この点を利用して、「債権者保護手続きを行わずに新設分割→分割会社に割当てられた設立会社の株式を第三者に譲渡」などとすることで、収益事業などを不採算部門などから独立させつつ、実質的な債務の減免を得ることができるのです。
 ただ、これに対しては、設立会社や承継会社に対する詐害行為取消権(民法第424条)や、平成26年の会社法改正で新設された直接請求権(詐害行為取消権と効果はほぼ同様ですが、同取消権と異なり裁判外でも行使可能な権利として、改正会社法第759条第4項、第764条第4項などが新設されました。)を利用した対抗措置がとられることがあり、分割会社に対する請求が認められているケースも少なくありません。

3 本判決の判断内容


 本件では、上記のとおり、被告である日立造船が原告らをNBLの取締役から解任したうえ、唯一の収益事業を会社分割により新設会社(日立造船コンポジットマテリアル株式会社。以下「新会社」)に承継させた後、新会社の株式を全てNBLから日立造船に譲り渡し、NBLを破産させた一連の行為について、日立造船やNBLの新代表取締役に対し、NBLの株主兼債権者である原告らが、株主間協定違反、善管注意義務・忠実義務違反等を主張しており、①これら一連の行為が株主間協定に違反しないか(日立造船の不法行為の成否)、②NBLの取締役としての善管注意義務・忠実義務に違反しないか(NBLの新代表取締役の任務懈怠の有無)が、主に争われました。

 これに対し、本判決は、①②とも、被告らの責任を否定し、原告らの請求を全て棄却しました。
 まず、①(株主間協定違反)の点については、株主間協定で「NBLのFRP事業の推進や拡大を図るために協力関係を構築すること」などが同協定締結の目的として定められており、FRP事業をNBLから独立させることはこの目的と直ちに合致するものではないものの、「当事者の事業協力を一般的に謳うものに留まり、具体的な法的義務を負わせたものとまでは解することはできない」と判断しています。さらに、株主間協定締結時点から、日立造船が任意に新株予約権を行使することによりNBLの過半数株主となり得ることが前提であったにもかかわらず、その後も原告らにNBLの経営に関与を保証する条項も存在しないこと、一連の手続きが会社法を遵守した手続きで行われ、新会社の株式譲渡の対価も適正であることなどを指摘して、原告らをNBLの取締役から解任し、NBLの財務状況が改善しない一方で簿外債務の懸念も生じていた自体を踏まえてなされた上記一連の「旧経営陣の解任→新設分割によりFRP事業を新会社に承継→新会社の株式を日立造船に譲渡→NBL破産」という行為につき、FRP事業に経営資源を集中させることにより同事業の継続を図るためのものとして不法行為に該当しないと判断しました。
 また、②(役員の善管注意義務・忠実義務違反)についても、上記の理由から、過半数株主である日立造船がFRP事業のNBLからの切り離しという決断に至ったことを受け、FRP事業の存続のためには日立造船からの資金援助以外に現実的な選択肢があったとは認められない状況下において、新設分割によりFRP事業を新会社に切り離したうえで、新会社の株式を日立造船に売却、その対価を債権者に対する弁済に充てるために破産手続きを利用したことは、合理性を欠く不当な判断であったということもできないとして、この点についても、原告らの主張を排斥しました。

4 最後に


 本判決の判断内容は、株主間協定の具体的な内容や新会社の株価の算定結果に基づくものであり、さらに、一般的に「濫用的会社分割」で問題となる「承継会社・設立会社に対する請求」でもありませんので、本判決の射程は、それ程広い訳ではありません。

 しかし、出資者と締結する株主間協定の内容や、会社分割により害される既存のステークホルダーとしての争い方、株式分割による収益事業の切離方法について、一定の示唆を含むものと思われます。

 投資や会社分割などのM&Aにおいては、複雑なスキーム、各種議事録・契約書作りが必要とされるケースや、慎重な判断を要するようなケースも少なくなくありません。当事務所は、主に事業会社の立場から、そのスキーム作り、株主間協定などの書類のドラフト・レビュー業務を含め、当事務所所属の司法書士とチームを組んで様々なM&Aに対応していますので、M&Aをお考えの場合には、お気軽にご相談いただけますと幸いです。


以 上
PAGE TOP