過去の新法・新判例

2017年01月01日

ICT・IoTビジネスと電気通信事業法等の一部改正について

弁護士 櫻井 康憲

1 はじめに

 今から約30年前の昭和59年、電気通信の自由化に伴い、電気通信事業法が制定されました。
 それから約30年の間に通信端末は固定電話からスマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末へと変化したほか、IoT1により人と人との結びつきを超えた新たな価値が創造される中、ドローンやロボット、車とICT2の融合など、新たなサービスがICTにより創出されつつあります。
 このような電気通信事業を取り巻く状況の変化を受けて、平成27年5月22日に「電気通信事業法等3の一部を改正する法律」(以下、「本改正」といいます。)が公布され、平成28年5月21日から施行されています。

 そこで、本稿では、電気通信事業法とICT・IoTビジネスとの関係及び本改正のポイントについて紹介したいと思います。

2 電気通信事業法とは

 電気通信事業法は、電気通信事業4(固定電話や携帯電話等の事業やプロバイダ事業、LINE等の一部SNSサービス事業などがこれに当たります。)について定めた法律です。
 電気通信事業者(電気通信事業を行う事業者)には、同法に基づき、事業を行うことの登録・届出のほか、様々な禁止事項が課せられることがあります。

 そして、本改正では新たに

①公正な競争の促進を目的とした制度の整備
②消費者保護を目的とした規制


 等がなされることになりました。

 ICT・IoTビジネスを行う事業者は、その事業内容によっては電気通信事業に当たる場合があります5ので、従来の規制に加えて、改正によって追加・変更された部分にも対応することが必要となります。

3 改正のポイント①~公正な競争の促進を目的とした制度の整備

 本改正では、公正な競争の促進を目的として、

・光回線の卸売サービス等に関する制度整備
・禁止行為規制の緩和
・携帯電話網の接続ルールの充実


等がなされました。
 本稿では、これらのうち、ICT・IoTビジネスを展開する事業者に最も関連する「禁止行為規制の緩和」に絞って紹介します。

(1)禁止行為規制の緩和とは

(改正前の規制)
 電気通信事業法は、市場支配的事業者(固定通信市場においてはNTT東西、移動通信市場においてはNTTドコモ)に対し、以下のような禁止行為(電気通信事業法30条3項・4項)を定めていました。

①接続の業務に関して知り得た情報の目的外利用・提供
②特定の電気通信事業者に対する不当な優先的・差別的取扱い
③他の電気通信事業者、電気通信設備の製造業者、販売代理店に対する不当な規律・干渉


(改正後の規制緩和)
 本改正により、移動通信市場において(すなわちNTTドコモについて)、②③の規制が以下のように緩和されました。

② → 禁止の対象が「グループ会社に対する優遇」のみに限定
③ → 廃止


(2)禁止行為の緩和による影響

 本改正がなされる以前は、NTTドコモは電気通信事業者と協業をする場合、他の電気通信事業者とも同条件で契約をしなければならず、MVNO6などの個別の要求に応ずることはできませんでした。
 また、相対の提供を希望する事業者に対しては、製品の機能を制限7して協業して行う事業が「電気通信事業」に当たらないようにしなければなりませんでした。
 しかし、本改正の規制緩和により、NTTドコモはMVNO事業者や他の協業しようとする事業者との間で、

1.相対料金での交渉ができる
2.排他的協業ができる
3.製品の機能を制限する必要性がない


ことになりました。

 これは、裏側から見れば、ICT・IoTビジネスを行う事業者が、自己の有する商材やサービスをNTTドコモのモバイル通信と組み合わせて提供することが容易になったことを意味します。
 NTTドコモの巨大な通信網、その有する情報及び通信に関するノウハウを利用して協業することができるということは、各分野においてICT・IoTビジネスを展開する事業者にとっても大きなメリットであり、また大きなビジネスチャンスとなるといえます。


4 改正のポイント②~利用者の保護を目的とした規制

 改正前電気通信事業法においても、電気通信事業者には、消費者の保護を目的として、提供条件の説明義務(法26条)、苦情等の処理義務(法27条)が課せられていました。

 そして、本改正により、新たに、電気通信サービスに関する契約について、

1.書面交付義務(法26条の2)・初期契約解除制度(法26条の3)
2.不実告知等の禁止(法27条の2第1号)
3.勧誘継続行為の禁止(法27条の2第2号)
4.代理店に対する指導等の措置(法27条の3)


 の各義務が電気通信事業者に課せられることになりました。

(1)書面交付義務・初期契約解除制度

(書面交付義務)
 本改正により、契約の締結後に個別の契約内容を容易に確認できるように、電気通信事業者に対して、主要なサービスについて、契約締結書面の交付が義務付けられました。
 この「書面の交付」は、利用者の同意があれば、電子媒体によることもできます(法26条の2第2項)。

(初期契約解除制度)
 サービスが利用可能な場所等を利用前に確実に知ることが困難、料金等が複雑で理解が困難といった特性があるサービスについては、利用者は、契約締結書面受領後等から8日間は、相手方の合意なく契約解除できる制度が導入されました。
 この規定に基づき解除できる契約は、以下の通り総務大臣により指定されています。

固定通信

  1.  ①MNO の携帯電話端末サービス
    NTT ドコモ、KDDI、ソフトバンクが提供する主に携帯電話(ガラケー)・スマホ向けのサービス(音声付き・音声のみ)
  2.  ②MNO の無線インターネット専用サービス
    NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、UQ Wimaxが提供する主にルーター・タブレット向けのサービス(音声なし・データ通信専用)
  3.  ③MVNO の無線インターネット専用サービス(期間拘束付きのもの)
    MVNOが提供するルーター・タブレット向けのデータ通信専用サービスで、期間途中で変更・解約すると基本料金を超える違約金が生じるもの


移動通信

①光回線によるインターネットサービス
 回線のみの場合も含む。光回線の卸売サービスも含む。
②ケーブルテレビのインターネットサービス
③光回線・DSL 回線向けのインターネット接続サービス


 これらの規定により、契約後に、利用者がサービス品質を実感し、料金等を熟慮する期間を設けることで、自らに適したサービスを安心して選択し利用できる環境が整備されました。


(2)不実告知等の禁止

 電気通信事業者及びその代理店に対し、主要なサービスについて、料金などの利用者・受信者の判断に影響を及ぼす重要な事項の不実告知や事実不告知(故意に事実を告げないこと)が禁止されました。
 「重要な事項」とは、 契約の内容(料金等)のほか、契約を必要とする事情(例:今使っているサービスが終了するので乗換えが必要であること、アパートの管理会社からの紹介で契約することになっていること)等をいいます。


(3)勧誘継続行為の禁止

 電気通信事業者・有料放送事業者及びその代理店に対し、主要なサービスについて、勧誘を受けた者が契約を締結しない旨の意思を表示した場合、勧誘を継続する行為が禁止されました。
 「契約を締結しない旨の意思」には、 契約の締結を断ることに加え、勧誘の継続自体を希望しないことも含まれます。


(4)代理店に対する指導等の措置

 契約時の提供条件の説明など、代理店による契約締結に関する業務が適切に行われるようにするため、電気通信事業者・有料放送事業者に対し、代理店への指導等の措置を義務付けられました。


5 おわりに

 本改正の規制緩和により、ICT・IoTビジネスにおける事業の拡大が望めることになりそうです。
 他方で、電気通信事業者は基本的に届出が必要になるほか、本稿で紹介したような様々な規制の適用があります。
 そのため、自社の事業に適用される規定を確認して、対応しておくことが極めて重要となります。


以 上
    __________________
  1. Internet of Things(モノのインターネット)
  2. Information Communication Technology(通信技術を用いたコミュニケーション)
  3. 電気通信事業法、電波法及び放送法
  4. 有線・無線の方法により、音声や画像等のデータを送受信する設備を用いて他人の通信のために役務を提供する事業(法2条)。
  5. 具体的な事業内容により、電気通信事業にあたるか否か、届出の要否等は異なります。
  6. 登録・届出の要否については総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補版]」が参考になります。
  7. Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)
  8. 無線通信回線設備を開設・運用せずに、自社ブランドで携帯電話やPHSなどの移動通信サービスを行う事業者
  9. 端末間の通信やSNS機能を使えないようにするなどの制限をする必要がありました。
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